【QlK】さいかいからあい【kwkm】〈完結〉

そしてまた塗り重ねて、 ページ16

Aさんとの約束の日はあっという間に来た。流れるように過ぎたと感じていたけど、その間には動画の撮影もあったし、いろいろな仕事もあった。…そのうちのひとつは、今日片付けるためにあまり手をつけていないわけだけど。

なんというか、いつもと同じくらい濃い日々なのに、流れるようだと感じたのが不思議だった。それだけ楽しみにしていたのか、と言われればまあそうなんだけど、なんというか、自分がそういうタイプだと思っていなかった。いや、過去の俺も楽しみにしてたけど、ここまでだとは。

約束の時間、約束の場所に着くと、もうAさんは既にそこにいた。今日もお仕事モードなのでかっちりめの服装だ。遠目から見ると、なんというか、既視感。その既視感は過去のAさんではなく、それっぽい多くの人が感じさせるのだろう。

いわゆる俺たちの空白の期間、似た髪型、背格好の女の子を見ては彼女を重ねて、すこし期待して、やっぱりちがくて、俺の想いは膨らんでいた。想いとは言ったけど、恋なんて大層なものじゃなく、故郷の同輩を想うような感じだと思っているけど。…まあそれはどちらでもよいか。どちらにせよ確実に俺の脳内の一角に彼女は長いこと居座っている。

「Aさん、待たせてごめん」

そんなありきたりな言葉をかける。Aさんとの待ち合わせは久しぶりだ。塗り替えられる感覚は今も続いている。

…塗り替えるという表現は、やっぱり少し違うだろうか。俺が伝えたいことは上書き保存とはまた違うのだ。レイヤーを変えて上に塗っている感覚というか、前の記憶は汚さないまま、また更新されていく感じで。継ぎ足されていくような、でも確実に記憶が元になって重なっていて。

「ひひ、何食べますか？」

当てはまる言葉を探して、思案に暮れそうになったけれど、彼女の明るい声で呼び戻される。まあ、当てはまる言葉なんてそのうち見つかればいいか。

「うまいもん食いたいね」

俺はこたえになっていないような返事をする。


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【QlK】好きを君に贈るなら【短編集】
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