2 追憶 ページ3
あの日の私はほんと、どうかしてた。
遠征が甘くないことくらいわかってるつもりだった。
目の前で仲間がやられて、リミッターが効かなくなった私は風間くんが止めるのも聞かずに突っ走って。
仇は取れた。
私の隊以外はみんな無事に帰還した。
黒トリガー1つと、私だけが場の空気を重くしていて、今すぐ逃げ出したいくらいだった。
涙は一粒も出なくて、どれだけ血も涙もないのかと自分を罵った。
もう、終わったこと。
過去は変えられないし、私もくよくよするつもりはない。
けれど、未だに泣けていないことだけがあの子達に対する私の想いの薄さを示すようで、キリキリと胸を締め付ける。
「A」
「風間くん、こんな朝早くにどうしたの」
活気の無くなってしまった、一人きりの作戦室。もうしばらく、隊を組むつもりはない。
風間くんは私を心配してくれているのだろう。暇があれば他愛もない話をして、気を紛らわせてくれる。
「俺の隊に入る気はないか」
あくまで、勧誘。
彼は絶対強要してこない。
お前が嫌なら構わない、と逃げ道も用意してくれる。
「今日はみんなも一緒か」
びくりと肩を震わせる菊地原と歌川。風間くんが早くから出て行くのを見て付いてきてしまったらしい。風間くんとしてはこんな予定ではなかったようだが。
「Aさんもさ、変わり者だよね。風間さんがこんなに誘ってくれてるのにさ」
「こら、菊地原!」
相変わらずの菊地原を歌川がいなすが、彼は言いたいことがまだあるらしく私にグイグイと寄ってきた。
「ほんと、風間くん懐かれてるね」
「Aさんのことも好きだし尊敬してる。だからこそフラフラしてんのが許せない」
予想外の言葉に私だけでなく風間も歌川も目を見開く。
素直に褒めてくれるのは珍しいし嬉しい。
「ありがとう。でももう少しだけ待ってくれないかな。傷口が癒えるまででいいからさ」
そう言うと、菊地原は顔色を変え、詰め寄ってくる。
「どこ怪我してるの!早くいいなよ!!」
「大丈夫、もう痛みはないよ」
「ばっかじゃないの……」
風間隊に入ってくれたら一緒に任務ができるし、Aさんが生身で怪我することなんてないのに、と呟くのを聞いて頰が緩む。
不器用ながらとても優しい子だ。
「じゃ、私もうすぐ防衛任務だから。またね」
「怪我してんなら大人しくしてなよ!」
騒ぐ彼を放って廊下に出る。
涼しいはずの風が肌刺すように冷たく感じた。
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作者名:瀬野 | 作成日時:2018年5月12日 0時