プリマ旦那河野と遣らずの雨�� ページ30
『…っ…』
Aさんが小さく身震いしたのが目に入った。
コートは羽織っているものの、すぐに戻るからとマフラーをして来んかったんからコートの襟の隙間に入ってくる冷たい空気が寒いんやろな。
俺は持っていた荷物をちょっと汚いけど一旦地面に置き、首に巻いていた自分のマフラーを外してAさんに差し出した。
『…河野くん？』
河野｢良かったら使って下さい。雨が降ったから余計に寒くなりますよね｣
『え、でも、そうしたら河野くんが寒いやろ？』
河野｢俺は身体が丈夫ですから！｣
やっぱり遠慮がちなAさんやったけど、俺の押しに結局折れて『ありがとう…』とちょっと申し訳なさそうにマフラーを巻いてくれた。
河野｢…臭ないですか？それ｣
『全然。めっちゃ暖かいよ』
Aさんの唇に俺のマフラーが触れる。
それだけで直接彼女に触れた訳でもないのにトクンと胸が高鳴ったと同時に今だけマフラーになりたいと本気で思った。
『そうや。お礼と行っては何やけど、…これあげる』
Aさんはコートの中に手を入れて何やら探り出す。
するとすぐに目当てのモノを見つけたのかコートから握った手を俺の前に出して開いた。
河野｢…飴、ですか？｣
『私の実家の近所にある駄菓子でしか売ってないヤツでそこらの飴よりめっちゃ美味しいねん。
子どもっぽいけど、今も私これすごい好きで持ち歩いてるねん。良かったら…』
河野｢…ありがとうございます｣
恥ずかしげに透明な包みにくるまれたレモンイエローの飴を差し出すAさんが堪らなく可愛かった。
マフラーのお礼に飴なんて、子どもの取引みたいで新鮮やな(笑)
Aさんから飴を受け取って、早速包みから出して口に含んでみる。
河野｢…ぁ…｣
口に入れた途端に広がる濃厚なレモン果汁。
レモンの酸味を邪魔しない程よい微かな甘さ。
舌を伝って喉を通る果汁の小さな刺激。
飴なんてどこも一緒やと思っていたけど、その概念はこの一つのレモンキャンディーによって崩された。
『美味しいでしょ？』
河野｢…はい、今まで舐めた飴の中で一番美味いです｣
『やろ？
…実はね、その飴今まで誰にもあげたことないねんで』
河野｢…え？｣
『めっちゃ美味しいから独り占めしたくて、同期の皆にもあげんかったねんけど、買い出しに付き合ってくれたしこんな寒い中マフラー貸してくれたから、河野くんには特別にね』
優しい笑顔で俺を見上げるAさん。
特別、俺だけに…？
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作者名：コッティ | 作成日時：2019年1月3日 21時
