幻聴-ht ページ14
ht「知らなくていいこと、ね。」
夢を見てた、とAは言った。それが、Aの魔法に対しての言葉なのか、世界を見つけたことに関しての言葉なのか、よもぎに対しての言葉なのかはわからない。
でも、時々思う。もしあの時、Aが俺の元へ来て、異常を理解させてくれなかったら、俺は間違いなく酷い結果を招いていたかもしれない。
だからこそ、もし、Aが世界を知ってしまったことを後悔していたとしても、俺はAに感謝している。
だからこそ、
ht「知らなくていいコトでも、知って初めて気づく幸せのあり方もあると思うよ。」
だからそんなに、背負わないで、気負わないで欲しい。
記憶がなくなってしまう。これは間違いなく焦らなきゃいけないし全員が危機感を覚えている。それは、どれだけ賑やかな雰囲気の中でも、必ずピリつくものとして隅に残っていた。
それに、俺も記憶がなくなるのは嫌だった。
世界の記憶が消える、と言うことは命のことを忘れてしまうと言うことだから。
もう戻れなくなった世界に、残してきた妹の墓。もう、戻ることもできないのも、覚悟の上での断絶。そこに追い打ちをかけるような記憶の消失。自分の体を蝕んでゆくような疲労を感じた。
思わずふらつく足を片手で頑張れ、とでも言うように支えて笑った。
『まぁーね。たしかにグルちゃん達を知ったことも、世界に関われたことも後悔はしてない。』
『でも、ぷあぷあさんや他のイメェジをした時みたいな夢を見る少女でいる自分を失っちゃったのは少し後悔。』
ut「もうそんな年でもないやん。普通俺みたいなやつあんな距離引っ張らへん。」
kn「なんか妙に大人びてて先輩すげぇ！！ってなるけど結構子供っぽいよな、頑固なとことか。」
『んな、』
ni「あはは、とにかく!過去は過去、今は今だ。目先のことに囚われずにさらにその先を見据えて動こう。」
兄さんの一言で一気に締め括られる会話。兄さんの目先には困惑した様子のゾムと、微笑むエーミールがいた。
ああ、そうだ。もう、聞こえないから。
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作者名：noroma±睡魔 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/Chihiro0521/
作成日時：2022年6月13日 20時
