ここが私達のスタートライン ページ7
A「無理やって」
小島「無理ちゃうって」
軽音部にとって記念すべき第1回目の活動が幕を開けた。
A「2週間ちょいやで！？」
正門「そやなあ」
A「無謀すぎるやろ！」
―と言っても時間通りに集まったのは小島くんと正門くん、そして私の3人のみ。
遅刻したら末澤先輩に吠えられるどころか噛み付かれるのではないかと恐れていた私は大人しく小島くんに着いてきたというのに、当の本人どころか過半数も揃っていないなんて。
A「福本くんは？」
小島「委員会の集まりちゃう？」
A「佐野くんは？」
正門「先生に捕まったってさっき連絡来てたわあ」
A「草間先輩は？」
小島「今日絶対バイト休まれへん！…って」
A「…末澤先輩は？」
2人が目を見合わせた。
小島・正門「さあ？」
あかん。こんなんじゃあかん。
絶対ライブなんてできひん。
この1ヶ月間あれほどしつこく私を勧誘していたとは思えない。
毎日のように誰かしらが声をかけに来ていたというのに、あの熱量は一体どこへ行ってしまったのだろうか。
A「無理やろこんなん…」
時間は限られているのに。
そのことは末澤先輩が1番よく理解しているはずなのに。
―てかそっちから誘っといて何やねん。
段々腹が立ってきた。
小島くんはのんびりとスマホで漫画を読んでいるし、正門くんはぼんやりと窓の外を眺めている。
今集まっているメンバーだけでも練習を進めなければ。
正門「あ、Aちゃん」
A「え？」
そっと近寄ってきた正門くんの指が優しく頬に触れる。
至近距離で視線がぶつかり、思わず息を止めた。
正門「ごめんごめん、睫毛ついてたから」
―正門良規。
またの名を"リア恋王"。
正門「前髪切った？」
A「あ、うん…」
それこそどこかのアイドルのような異名を持つ彼はとにかく優しく穏やかな人。
その一方で努力家な一面もあり、周りをよく見て動けるしっかり者でもある。
ぽやぽやとした雰囲気を纏いながらも周囲への気配りを忘れない彼は狙わずとも無自覚にモテる。
"女子生徒の頬についた睫毛を取る"なんて行為が許されるのは少女漫画のキャラクターと正門くんだけだ。
その上、"数センチしか変わっていない前髪に気付く"という乙女心の擽り方をできるのも正門くんだけ。
全く相手にされずに落ち込み切った末澤ガールズの行き着く先が彼というのも納得。
小島「あ、晶哉来るって！」
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作者名：ﾋﾟﾝｷ | 作成日時：2023年1月17日 15時
