スペシャリストの凄技 ページ39
「おーい」
声がする。
「Aちゃーん」
この声は多分―
否、確実に正門くんだ。
A「…えっ…?」
目が覚めた。
瞼を開くと同時に見慣れない天井が視界に入る。
正門「あ、起きた?」
A「…起きた」
正門「おはよう…って言っても夜やけど」
窓の外は暗い。
1階から賑やかな声が聞こえる。
A「皆は?」
正門「今から晩ご飯やって」
A「あ、そうなんや…」
あのまま寝てしまっていたらしい私の顔を覗き込む正門くんの優しい表情に少しだけほっとした。
正門「ご飯食べれそう?」
A「うん、食べれる」
正門「ほんならよかった」
ゆっくりと体を起こした。
若さの証拠だろうか、もう既に太腿付近の筋肉痛を感じる。
A「…あっ、私お風呂まだや」
正門「後でええんちゃう?」
A「いやでも…まあまあ汗かいたし」
既に乾いてしまっているものの、不快感は残されたまま。
正門「気にせんでええんちゃう?」
私より汗かきな正門くんにそう言われると迷ってしまう。
A「んー…どうしよ」
正門くんが腕を伸ばした。
手のひらが着地した先はシーツ。
少しだけベッドが沈む。
A「えっ、」
反対の腕が伸びる様はまるでスローモーション。
おでこに正門くんの体温を直接感じる。
正門「熱ある?」
手の感触とか息遣いとか、色々とキャパオーバー。
そもそも部屋に2人きりなんて、とか考え始めて鼓動が早くなっていく。
正門「うーん…ない?」
長い睫毛がかかった瞳と視線がぶつかる。
その瞬間逃げるように俯いた。
A「…あの、私は元気…です…」
正門「あ、ほんま?なんか顔赤い気して」
A「走ってからずっと火照ってるだけやと思う…」
正門「なら良かった、」
流石正門くん。
ここまでくると最早称賛の域。
無自覚で乙女心を鷲掴みにするスペシャリスト。
絶対汗臭いやん、なんて思う暇もなく距離を詰められてただただ戸惑うしかない。
A「とりあえずお風呂…」
言葉を遮るように部屋の扉が開いた。
福本「…えっ?まっさん何してんの?」
正門「あ、大晴」
福本くんの瞳が私と正門くんを交互に捉える。
福本「呼びに行くって言ってから全然降りて来んから…てか近ない?」
正門「え?ああ、ごめんごめん」
福本くんは"皆待ってんで"とだけ告げてその場を去っていった。
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作者名:ピンキ | 作成日時:2023年1月17日 15時