王子様なんて存在しない ページ4
A「…ほんまに嫌やねんけど」
小島「あかんって、はよ書かな。」
机に置かれた1枚の紙。
それは私がこの1ヶ月間拒み続けてきた軽音部への入部を確約させるもの。
福本「ここの欄埋めて、あと最後ここに名前書いて」
―即ち入部届である。
A「…ほんまに嫌や…」
私は目立ちたくない。
とにかく目立ちたくない。
今この瞬間2人と話していることでさえ苦痛で仕方がない。
小島「腹括れって」
小島健―
彼は整った顔立ちと抜群のスタイル、持ち前のひょうきんさでクラスの人気を誇る人物。
福本「ペン持ってる？俺の貸そか？」
福本大晴―
運動神経抜群、学力も十分。
学生生活において1番モテる文武両道タイプ。
福本「部活楽しみやなあ」
小島「はよやりたいよなあ」
福本「俺あれやりたい！最近流行ってるバンドの…」
こんな状況、目立つに決まってる。
A「…後で書くしどっか行ってくれへん？」
痛いほど感じる妬みや羨望の眼差しに耐えられなくなった私は2人を追い払った。
大勢に好かれて注目を浴びるというのは決して簡単なことではない。
本人が望んでいるかどうかはさておき、それもまた一種の才能であり魅力を持っている証。
だからこそ嫌で嫌で仕方がない。
心の奥底から平凡な日常を求めている私にとって小島くんや福本くん、末澤先輩と関わることは大変望ましくない。
隣を歩いたり会話を交わすことは愚か、目を合わすことさえ極力避けたい。
ましてや同じ部活に入るだなんて憂鬱そのもの。
学年は違えど、軽音部に誘われる前から末澤先輩の存在は知っていた。
入学当初から噂という噂を耳にし続けていた為、初めて話しかけられた時は"本物や…"なんて口走ってしまったのを覚えている。
だけど、私の中のイメージと実際に関わって感じた印象は余りにも違った。
王子様的なキャラクターだと勝手に決めつけていた自分が恥ずかしくなるほどに彼は―
末澤「何をボケっとしとんねん、はよ書け」
A「…いつの間に…」
やけに廊下が騒がしいと思っていたけれど、入部届を眺めていたせいで目の前に末澤先輩が現れたことに気が付かなかった。
A「後で書きま…」
末澤「はあ？今書いたらええやんけ」
折角福本くんと小島くんを追い払ったのに、完全に無意味になってしまった。
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作者名：ﾋﾟﾝｷ | 作成日時：2023年1月17日 15時
