とある未成線の話【青春鉄道】

中山道さん３５ ページ38

・

「青野の代理だろ？ 分かんねぇならちゃんと聞け。ほら行くぞ」

　運は己らに見方をしているようだ。どうやら誰かと勘違いしてい
るようで、しかし、好都合だと頷いた。

　それからは簡単に中に入ることができ、職員の制服も手に入れる
ことができた。説明を受けている間は、反吐が出るほど不愉快であ
ったが、なんとか我慢して施設内の見回りを始める。

　一人ひとりの行動に不安を覚えなくもないが、この方が効率的だ
とも思う。外から見た時も思ったが、この施設は案外広い。廃線と
いえど、いろんな時代のいろんな路線がいるため、人数は多い。そ
れもあってこれだけの広さがあるのだろう。


　さて、


　――いわて銀河鉄道はどこに行った？

　彼が会うのは恐らく中山道だ。彼を見つけられれば、彼女も見つ
けられるのではないかと思っている。

　しかし、施設は思っていたよりも広く、そして、複雑だった。
　当てもなく、歩いているとやはり何人かの廃線とすれ違う。見覚
えのある者から、無い者までいる。恐らく彼等は、廃線前の所属の
制服のままなのだろう。その形に見覚えがあるため、路線に見覚え
がなくとも、どこの路線だったのか大体予想ができる。

　ただ、気になるのは、自分とすれ違う時、彼等はすぐに端によっ
て頭を下げるのだ。そして、半袖の者もいるが、見えている彼等の
腕や足には多くの傷痕や痣がある。

　手酷い扱いを受けているのがはっきりと見ることができる。

　――中山道は無事だろうか？

　中山道も恐らく同じ扱いを受けているのだろう。彼女がそれに耐
えていると思うと息苦しくなる。もっと早くにこの施設の連中を疑
うべきだったと、本気で思った。

　その時、ドンッと誰かとぶつかった。

　東海道が口を開くより先に

「すみません！ あ、その……」

　相手が勢いよく頭を下げ、大きな声で謝り始めた。酷く怯えてい
る様子の彼に、何かを言おうとしたが、ぶつかってきた路線の顔に
見覚えがあった。


　――確か、元東武矢板線……


　彼は半袖を身に着けていて、しかしその腕は酷いものだった。思
わず、彼に触れようと手を伸ばした時だ。



・

中山道さん３６→←中山道さん３４

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す