7.家族【山本武】 ページ26
過剰には目を引くものではないが独特の空気を持つ落ち着いた和風の建物。
「隠れた名店」とはまさにこんな店をいうのだろうと、寿司屋の扉に手をかけながらAは息をのんだ。
「こ、こんばんは!」
のれんをくぐると同時に、自分の緊張が解けるよう大声で呼びかけた。
??「おお、いらっしゃい。 開店時間に来るなんて気合入ってるね」
人の好さそうな中年の男性が柔らかく言うので、もっと頑固そうなオヤジが出てくるかと思っていたAは拍子抜けする。
男性の言う通り開店時間に合わせたので他に客はいない。
どこに座ろうか迷ったが、テレビ番組から寿司屋といえばカウンター席という情報を得ていたためその通りにした。
??「お嬢ちゃん1人かい?」
お茶を出しながら聞かれてハッとする。 14歳の子どもが1人で夕飯を食べにこんな店に来るなど不審に思って当然だった。
「前は、えーと、祖父と住んでいたんですけど、最近日本に引っ越してきて。 一人暮らししてるんです」
??「日本に、ってことは以前は海外に? じゃあ寿司は初めてだったりするのか?」
「そ、そうなんです! 食べてみたかったんですけどなかなか機会がなくて、絶対ここで食べるんだ!ってずっと前から決めてたんです!」
追及はしないという態度に安心したのか、一息に言ってしまった。息を整えるように茶に口を付ける。
??「そうかいそうかい。
へへ、そんなに言われると照れるや」
鼻の下をかく爽やかな笑顔に、見覚えがある気がした。
??「オレもお嬢ちゃんくらいの息子がいるんだけどどうも泥臭くてねぇ…
おっいけねぇ話し過ぎちまった。食べたいのを選んでくれ! おじちゃんなんでも握っちゃうよ!」
「どうしよう… 全部おいしそうで選べない…」
??「はっはっは! じゃあおじちゃんがとびっきりおいしいの握ってやるよ!
苦手な物はあるかい?」
「なんでも大丈夫です! 好き嫌いないんです、私」
Aは小さく胸を張った。
??「おうおう立派だねぇ」
2人が談笑していると、のれんから覗く顔が。
??「ただいまー。
ん? お客さん来てんのか?」
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作者名:波紋セラーノ | 作成日時:2020年4月26日 16時