白花薊を枯らさないで (ページ1)

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「私、海人のお母さんじゃないんだけど！」

「ちょ、A！」

わざと大きく音を立ててドアを閉め、私は海人と共に住まう家を出た。

「はあ…またやってしまった…」

私は歩きながら後悔の念に駆られていた。

彼氏の海人は同じ大学の同期。

付き合い始めた当初は、のんびりしてるようで気が利く、そんな彼だったのに。

同棲し始めてから何かが変わったようにその優しい気遣いも少なくなって、

面倒見がいいともよく言われる私に最近はすっかり甘えて、もはや海人は大きな赤ちゃんだ。

「でも、あんなに言うことなかったよね…」

深夜0時のこの時間に似つかわしくない叫び声をあげて家を出た自分を思い返しては、夜風が自分を戒めるように吹き付けた。

あてもないまま歩いているうちに近所の海に辿り着いた。

今日は風が強くて、ちょっと寒いけどこの頭を冷やすにはちょうどいいだろう。

ふと携帯を開くと、海人からの謝罪のメッセージと1件の不在着信。

海人とは今まで何回も喧嘩してるし、周りからは"別れれば？"なんて言われることも多いけど、

いつもこの"ごめん"の一言を見るだけで許してしまいそうになるのだ。

「許してあげよっかな…」

そう思って、腰をあげようとしたとき、私は誰かから肩を叩かれた。

「あの、大丈夫ですか…？」

「へ…？」

ふと後ろを振り向くと、小綺麗な男性が私を心配そうに見下ろしていた。

「思い悩んでるようだったので…。今日の夜は冷えますよ」

「あ…えと、彼氏と喧嘩ちゃって…」

__この時の自分はあまりにも浅はかだったと思う。

知らない男性に簡単に弱みを晒して。

そんな私の言葉を聞くと、彼はまっすぐに私の隣に座った。

彼は私と目が合うと優しい笑みを見せた。

「明日は休み？」

「え、えと、はい…」

「俺でよかったら話聞くよ」

なにこれ、ナンパ？

怪しすぎる。

でも、弱みにつけ込まれると人はこうも弱くなるのか。

「…聞いてくれますか？」

私はこの日、彼の誘いに乗ったのである。