156話 いらない光栄 ページ6
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side和
雅紀がAになついている風景は
ただただ微笑ましく思う。
そう思わせてくれる雅紀の純粋さに
俺は救われているんだ。
正直、端から見ていると
兄妹と言うよりも、親子。
溜め息混じりに雅紀を相手するAは
弟を相手にしているというより
息子を相手にしている時のようで。
微笑ましくて、あたたかくて、
……懐かしくて。
少しだけ胸が、苦しくなる。
でもまさか、
Aと兄妹になるために
雅子さんと結婚してくれなんて
言われるとは思わなかったな……
さすがに面食らって、対応に困ったわ……
父親を亡くしてすぐ、
寂しさからくる発言なのか……
本当に願ってるわけじゃないとは思うけど。
雅子さんを前にして
さすがに気まずかったよね……
まぁ、
Aをお嫁さんにちょうだいと言われるよりは
全然ましだけど。
「A、先にお風呂入っといで」
皿洗いをしようとした雅子さんを制止して
雅紀と一緒に半ば強引に帰宅していただいたあと、
食器を流し台に片付けながら
Aに声を掛けた。
俺の声が聞こえなかったのか
Aは俺に背を向けたまま
台所のスポンジを掴んで
洗い物を始めようとする。
「A」
「わっ！？」
後ろから、スポンジを握ったAの手に
自分の手を重ねると、
驚いて飛び上がったAが
目を丸めて俺を見上げた。
「そんな驚くかね？」
「き、急に後ろにいるから！」
「……声も掛けたのに、聞こえないほど真剣になに考えてたの？」
「えっ……」
なんとなく言った言葉のつもりだったけど
意外なほど驚いて見せたAからは
本当に何か真剣に考えていたってことが分かる。
……雅紀が
雅子さんとの結婚、なんて口走った辺りから
Aの様子がかわったことは、分かってる。
ほんとに……子供だな、って思う。
でも、
中学生の娘に「父親を取られたくない」と思ってもらえるのは
光栄なことなのかもね。
ほんと……
そんな光栄、いらないけどね。
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作者名：あひる x他1人
作成日時：2017年6月3日 23時
