160話 移動手段 ページ11
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side和
結局、大家族での旅行になってしまったのは致し方ない。
まず、由里子の父親が
「Aちゃんのお父様が来られるなら」と
俺を理由に娘の旅行に同行する権利を得ようとしていたので
……由里子から聞いていた諸々の話しもあるし
是非同行して頂こうと思いつつ、
……あの電話の主と24時間以上を過ごすのは
耐え難いと思い立って
すぐに考えたのは雅子さんだったけど、
俺と、由里子の父親と、雅子さん、て
これどんなラインナップよ。
ということで、松本家も動員しての
大所帯となった。
雅子さんの交遊録は知らないけど
智子とは一度、2人でお茶したことがあるらしく
ちょこちょこ連絡もとっていたようなので
最近の出来事も踏まえて
楽しくなってもらえたら良いと思う。
智子のお腹はずいぶん膨れて、
今にも赤子が出てきてしまいそうだけど
つわりが殆ど治まって、ふっくらしてきた智子は
至って元気で
今日の旅行を心待ちにしてくれた。
「栃木だったら車でも行けたのに。
この人数でホームに立ってるの恥ずかしいわ」
向こうのほうで
子供達が固まってお喋りしている会話の中で
由里子のそんな声が聞こえた。
確かに、車で向かっても片道およそ2時間半の距離。
大きな荷物を抱えて電車を乗り継ぐより
よっぽど楽だったろうけど、
俺なんかより
車での長距離移動に難色を示したのは
Aだった。
「事故が怖いから、電車がいいな」
もちろん、電車だって事故を起こさないとは限らないし
例え徒歩でも、その他の移動手段であっても
安全の保証なんかできやしないけど、
そう言って、少し目を伏せたAを
掻き抱きたいと、心底思った。
Aが車を嫌がる理由
それは もしかして なんて
期待と
願望と
恐怖が入り混じって。
―――あの時のこと 覚えてる ？
聞きたくても聞けない言葉が
言いたくても言えない言葉が
腹の底で、うずいた。
「和くん」
名前を呼ばれて、我に返る。
「ウチもキャリーバッグ買えばよかったね。
荷物重くない？」
ボストンバッグを担ぐ俺に
そう声をかけるA。
「平気だよ。重くない」
そう言って俺は
小さなAの頭を撫でた。
車で遠出なんかするくらいなら
それで死ぬくらいなら
重い荷物なんかいくらでも持つから
安心して。
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作者名：あひる x他1人
作成日時：2017年6月3日 23時
