～箱庭～ワタシとアイツのその頃【N.K】 (ページ20)

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・19　ワタシページ20

『うん…いいよ？』

少し控えめな、囁くような小さな声でそう言った

さとみちゃんの感情を読み取ろうともせず、俺は一方的に家の住所を告げて電話を切った。

仕事帰りの車の中で、自分が何を考えていたのかは思い出せない。

家に着いてすぐに、リビングへは向かわず洗面所に行くと

叩きつけるように水で顔を洗った。

水滴が垂れる顔のままぼんやりと鏡の中の自分を眺めている時に、その音は響いた。

ピンポーン

鳴ったのは玄関ホールのインターホンの音ではなく

玄関先のインターホンの音だと気付いてはっとする。

顔を拭くのも忘れて玄関まで向かって戸を開けると、さとみちゃんがいた。

「よくここまで来れたね？」

「ゲート開けた人と一緒に入ってきちゃった。」

ニッコリ微笑んださとみちゃんが、中に入って玄関を閉める。

「ニノ、顔びちょびちょ。」

「俺も今帰ったとこ。顔洗ってたの。」

どうぞあがって？

そう言った俺の言葉を聞いて、さとみちゃんが靴を脱いでいる間に

洗面所に引き返してタオルを掴み、顔を拭いながら廊下に出た。

俺の後から着いてくるさとみちゃんが、リビングの扉を閉めた音を聞いて

俺は後ろを振り返った。

リビングの扉のドアノブを後ろ手に握っているのか

両手を後ろに回した姿勢のままのさとみちゃんが俺をじっと見つめて

「わたし、どうして呼ばれたの？」と、訪ねて来た。

どうして呼んだのかなんて、訊ねられたら困る。

酷く醜い感情をしまい込んで俺は笑みを作ると、さとみちゃんの問い掛けに答えず

彼女を自分の傍へ引き寄せ、

それ以上何も話してほしくなくて、自分の口で彼女の口を塞いだ。

触れる程度のキスをして、甘く噛み付いて視線を合わせると

切ない顔をした彼女は小さな声で俺の名前を呟く。

俺は彼女の頭を抱え腰を抱くと、さっきよりも深いキスをした。

何も知りたくない、君の感情を読み解きたくない。

彼女の手が俺の服を掴む。

もう片方の手が俺の腕を、強く、きつく握り締めて

俺は身体を彼女ごと少しひねると、彼女をキッチンカウンターに押し付けて

時々漏れ出る声を無視して、彼女の口の中へ自分の舌を滑り込ませる。

彼女が

観念したかのように身体の力を抜いて、

俺の腕を掴んでいた右手がするすると離れたかと思った時だった。

ゴトッ

と音を立て、

何かが俺の注意を惹き付けた。