・15 ワタシ ページ16
「ねぇ、翔さん。」
さっきまで進めていたゲームを中断して
俺は、目の前のパイプ椅子に座って、雑誌を捲っていた翔さんに声を掛けた。
「んー？」
雑誌から顔を上げずに返事をする翔さんに、
自分から声を掛けておいて、俺はすぐに次の言葉を掛けられなかった。
本当ならこんな事は聞きたくないし、聞いたりするのは俺らしくない。
それに酷く無神経な事を聞くことになるかもしれなくて
俺はまた、ゲームの画面に視線を戻した。
「ふふ…何よ？」
何も話さずゲームをし始めた俺に向かって、翔さんが笑う。
「あぁ、なんです？」
「なんです？じゃないよ、何？俺の名前呼びたかっただけ？」
「あら、声に出ちゃってました？」
「なに〜言ってよ。」
それ以上ふざけず俺に次を促す翔さんは、
ふふっと笑いながらも相変わらず雑誌から顔を上げないから
じっと見つめられてるよりはいっか、と思って俺は次の言葉を口にする。
「翔さん、もう忘れた？」
俺も、翔さんの顔は見ないでゲームの画面に視線を置いたままで言ったから
翔さんがどんな顔をしたかは分からないし
なんの話し？って言われてもいい質問だったんだけど
翔さんは「ん〜」と声をあげると
「忘れてないよーん」と呑気な声をあげた。
「ははっ、陽気。」
「俺はいつだって陽気〜。」
「辛くないの？」
「何がー？」
あ、そこは聞いてくるの。
「……忘れないでいて、辛くならない？」
翔さんはまた「ん〜」と声をあげると
「忘れられるもんなら、忘れたいよ。」と
今度は低くて掠れたような声で呟いた。
「あー……デスヨネ。」
「ですね。」
「やっぱり……辛いの？」
翔さんの方をチラッと見ると、目が合った。
翔さんは眉をハの字に下げて口角を上げるとまた「ん〜」と唸って
「ニノ、辛いんだ。」と言って笑った。
うぅ…くそー(笑
「何でそうなります？」
「そうなんだろ？」
「俺いま翔ちゃんに聞いてるの〜！」
「俺は辛いよ、ニノも辛いんでしょ？」
この人は、
言葉足らずでも、1から10まで説明しなくても
すぐに理解して、的確に判断して、その先を繋いでくれるくせに
肝心なところで(いや、きっとわざと)こちらにきちんと説明させる。
いや、うん、まぁ、今で言ったら
俺は自分の気持ちも考えも、1つも言わないのは確かにフェアじゃないんで
そんな事言ったって仕方ないのは分かってるんだけど……
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作者名：あひる x他1人
作成日時：2014年9月9日 16時
