99話 旦那の病気 ページ12
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side和
雅子さんのいる場所は、検討がついている。
雅紀を預かることもあって、
雅紀の家、雅子さんの職場、それから、
旦那が通う病院、に関しては、その場所を聞いている。
目的の病院に着くと、院内に入る前に雅子さんを見つけた。
入り口脇のベンチに腰掛けて、ぼんやりしている。
「雅子さん」
声を掛けると、ゆっくりと上がる顔。
真っ白の電灯に上から照らされているせいか、
生気がないように見える。
「ずいぶん待たせるじゃない。どうしたの？」
「あ、ごめん、いま何時？」
「もうすぐ9時」
「うわ……」
はぁーっと息を吐き出して、ガクッとうなだれる雅子さん。
「ごめんね……和也君のところにいるって思ったら……ちょっと安心しちゃって」
「いいよ、それで」
雅子さんは下を向いたまま あははっと声を出して
そしてまた小さく溜め息をつく。
「……旦那は？」
「ん、後から来た義母さんが見てる……」
「後から……来たの？」
「あたしじゃどうにもならなくなっちゃったの」
ははっと気だるげに吐き出される声。
……それ以上は、何も聞けなかった。
雅子さんの旦那は……
若年性の認知症の症状が
日に日に進行しているとのことだった。
始めはうつ病との診断を受けた。
その後、それに対する治療に励むも回復は見られず、
別の病院で検査を受けて、認知症かもしれないと診断された。
始めは誰にでもあるような物忘れから始まった。
それは次第にひどくなり、仕事にも影響が出始めた。
フォローしてなんとかなるようなレベルではないほどの酷さにまでなり、
仕事は辞めざるを得なかった。
そして、
私生活もままならないほどの物忘れ、成り立たない会話。
自己中心的で、威圧的な態度に豹変した旦那。
そんな旦那と離れる決め手となったのは、
旦那が雅紀に、暴力を振るったこと。
限度を超えた、怒りに任せた暴力。
雅子さんは旦那を支えることよりも、子供を守ることを選んだ、ということ。
だけど、離婚届こそ出していないものの別れることを選んだのは、
旦那の意思でもあった。
すぐに忘れてしまう自分を、
なにも覚えていない自分を、
変わり果てた自分を、
もう誰にも、見られたくない……と。
特に、
愛している、2人には。
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作者名：あひる x他1人
作成日時：2015年10月7日 0時
