89話 ケータイ選び ページ2
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夏休みに入る前。
相変わらずに唐突な和くんからの「行くぞ」を受けて
午前中からケータイショップへ。
「やっぱり流行りのスマホ？がいいの？」
「分かんないよ…。和くんはパカパカケータイでしょ？なんでスマホじゃないの？」
「だって電話とメールしかしないもん」
それに連絡する人もいないって言って、
和くんはケータイをパカパカさせる。
「智子と、潤くんと、雅子さんと、あと会社の人と」
和くんのケータイが、パコンと高い音を立てて二つ折りになった。
そういえば和くんて……仕事なにしてるんだろう？
いつのまにかスーツを着て出掛けるようになっていて、でもそれを深く気にしたことがなかった。
「本日のご用件をお伺いしてもよろしいですか？」
横からすっと近付いてきた店員さんのおかげで
仕事について訊ねるタイミングを逃して、
ケータイ選びに戻る。
わたしだって、連絡とる人なんて和くんと、由里子と……
相葉君と、風間君くらいなんだろう。
「キッズケータイ、だってさ。これにする？」
何故か小馬鹿にしたようにニヤニヤしながら
キッズケータイを見せてくる和くん。……何が言いたいの。
「じゃぁそれで」
「ノリわるっ。中学生は普通キッズケータイとか使わないから」
「なにそれ！？んじゃバカにしたかっただけってこと！？」
「そうだよ？バカにされたことに対して反応しろっつの」
何がしたいのよ馬鹿！って和くんの肩を叩くと、
全然よける気もない身体がくにゃっと揺れて、ふはっと笑い声が漏れる。
「あー、可愛い。Aは可愛いなぁ〜」
「馬鹿にしないでってば！」
「今のは馬鹿にしたんじゃなくて本音だから！」
別に、じゃれあっていたつもりはないけど、
わたしと和くんのやりとりを見ていた店員さんは
苦笑い気味で「どうされますか？」って、半ば強引に割って入ってくる。
「はしゃぐなよ、ばか」
「はじゃいでんのは和くんでしょ」
またつまらないやりとりが始まると思ったのか
店員さんは無理やり「例えばこういった機種なんかは……」って言いながら
目の前に陳列されたケータイを1つ、手にとって見せてくれる。
はしゃいではいないけど……
くっだらない事を言い合うのも、
わたしをからかって笑う和くんも、
嫌いじゃないから、やっぱり和くんと出かけるのは楽しい。
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作者名：あひる x他1人
作成日時：2015年10月7日 0時
