38話 俺だけのもの ページ39
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side和
式が始まると、ざわざわしていた館内も静まり返る。
さっきまで馬鹿笑いしてた雅子さんも、
俺たち3人も静かに黙って、真っ直ぐ前を見た。
列を成して体育館の中に入ってくる新一年生の群れに、
保護者達は懸命にカメラを向ける。
雅子さん、と……智子も例外じゃない。
何もしない俺に向かって、潤は小声で「いいの？」って聞いてくるから、
カメラを構える智子を指差してやった。
あ、
列の中に、Aを見つけた。
Aが、一瞬保護者席に目を向けた。
その一瞬の間に、俺と目が合う。
それでも、止まらない歩みに乗ってAは進んでいく。
少し笑みを乗せて、ふいっと前を向いたAを見て、
あぁ、綺麗だな、と思った。
胸の中が、ゾクゾクと震える懐かしさを、
この時初めて感じた気がする。
あぁそうだ、この感覚。
久しぶりだ……
Aに恋して、止まらないと自覚した時の感覚。
A。
大人になったんだな。
いつの間にか、涙が零れていた。
愛しい、愛しいこの気持ちを、
親心へと変えて、
Aのそばにいると決めたのに。
……Aが、何も思い出さない限り
Aの新しい人生を、
Aの親として精一杯祝福しようと決めたのに。
ふいに、俺の膝の上に優しい手の温もりを感じた。
その手の持ち主は、潤だった。
潤は俺の涙を見て、
寂しい、寂しい顔をする。
潤がそんな顔することないでしょ。
言っておくけど、
俺の中のこの気持ちは、
誰にも理解してもらうつもりはないよ。
こんなめちゃくちゃで複雑で、
混沌としたこの気持ちだって、
辛くて苦しくて、もどかしいこの気持ちだって、
俺だけのものなんだから。
Aだって、本当は……
俺だけのものなんだから。
そう思う気持ちを押し込めて、
いつまで続くんだろう。
報われない気持ちを俺は、
いつまで誤魔化していられるだろう。
やっぱり俺は、ダメなんだ。
やっぱり俺はどうしても、
Aの事を、愛してる……
恋しくて恋しくて、
欲しくて欲しくて仕方がないんだ……
溢れた涙は止まらない。
無意識に俺は、
左手の薬指にある愛の証を、
指でなぞっていた。
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作者名：あひる x他1人
作成日時：2015年5月8日 2時
