31話 スーツ ページ32
・
店員が「こちらなんてどうでしょう？」と言って持ってきたスーツを、
和くんは「じゃぁそれで」と二つ返事で会計に移ろうとするので、
店員と一緒にそれを制して試着を促した。
明らかにめんどくさそうな顔をした和くんに、
「似合ってなくてかっこ悪かったらヤダ」と言ってやったら
和くんは口を尖らせて、渋々試着室へ入っていく。
「どう？かっこ悪い？」
そう言って出てきた和くんは……
「かっこ悪い」
「マジか！おい店員！！」
「すすすすいません！！」
あの時はかっこ悪い以外になんて言葉で表現したらいいか分からなかったけど、
今で言ったら「着せられてる感」がすごいというか、
だぼついて見えるスーツが、
子供がお父さんの背広を着ました、みたいな空気を出してるというか……
本当、就活中の学生……のように見えて。
「何がいけないわけ？これでいいじゃん」
「変だよ、なんか子供みたい」
「……子供に子供とか言われたんじゃ世話ないな」
慌てて次のスーツを選びにいった店員は、
父の言う一番標準とは少しだけ違う、タイトで綺麗めなスーツを持ってきた。
色もグレーで、ストライプの柄も入っている。
なんかチャラチャラしてる…と小言を漏らしながらも試着室へ消えていく和くん。
そして出てきた和くんは……
「かっこいい！」
「かっこいいです二宮様！」
店員とわたしからの拍手を浴びて苦笑する和くん。
スーツの形ひとつでこうも違うのかと思うほど、
劇的に変わった和くんを見て、一気に心拍数が上がる。
「でもこれ……例えば仕事で、あり？」
「もしよかったら、二着目半額でご購入いただけますから、
これは入学式用に、もう一着は色を少し落としたものを選ばれては？」
二着も買う気ないんだけど、と言って、
店員の提案を断ろうとする和くんにすかさず割って入って、
これ着て入学式に来て欲しいと言えば、
和くんは渋々、二着目も店員に選ばせた。
「お父様、とっても素敵ですね。」
店員のお世辞に、笑顔で「うん」と返事をする。
でも店員の発言が、実際はお世辞でもないんだって事は、
これも、中学の入学式に知る事になる。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1022人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「嵐」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あひる x他1人
作成日時：2015年5月8日 2時
