03話 だから言わない。まだ ページ4
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和くんが何の仕事をしていたのか、私にはわからない。
でも今考えてみると、
計算によればわたしが3歳の時、和くんはまだ18歳だった。
もしかしたら和くんは……学校に通っていたのかもしれないし
どこか違う町か都会で、働いていたのかもしれない。
それからこの町のじじばば達は、
みんな和くんの事を「和くん」とか「和也くん」て呼ぶから
小さい頃は当然わたしも父の事を「和くん」と呼んでいた。
だって、育ててくれる男の人が「父親」で、
お父さんと呼ぶんだと教えてくれる人は誰もいなかったから。
父親を、和くん、と呼ぶのがおかしいと知ったのは
隣の隣の隣の街の小学校に通い始めた頃。
友達に「それってお父さんの事でしょ？」って言われて
その日、家に帰ってわたしは父に、
「かずくんは、Aのお父さんなんでしょ？」って聞いたんだ。
そしたら父は怪訝な表情をして、
「違いますけど？」って答えた。
「だって、友達が言ってたし、お父さんを名前で呼ぶの、変だって……」
「だから俺、お前の父親じゃないって」
「だって、Aと一緒に住んでて、Aのこと面倒見てる人でしょ？」
「イコール父親とはならないの。俺はお前のお父さんじゃないの」
「じゃぁ、和くんはAのなんなの？」
わたしの問いかけを聞いて、父は目を丸くした。
そして、長い時間を掛けて
「それは……まだ、秘密……」
そんな言葉を、搾り出す。
「……どうして？」
「……お前のため、かな」
お前のため、の意味を
もちろん理解出来ないわたしは、
わかんないよぅって……ふて腐れた顔をして俯いた。
「な、わかんないだろ？だから知らなくていいんだよ、まだ」
「……分かるように言ってよぅ……」
「んー……今のお前に分かるように……って言うと……」
父は、智子ちゃんに頼まれていた
さやえんどうの筋取りをする手を止めて、
ふーんと天井を見つめて
「お前の事を、愛してるから。だから言わない。まだ」
そう言って、真っ直ぐにわたしを見た。
優しく笑う、その顔が、何だか見ていられなくて
「大きくなった時に、またこの話しが出来たらいいね」
それだけ聞いて、わたしはたまらず台所を飛び出した。
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作者名：あひる x他1人
作成日時：2015年5月8日 2時
