28話 棺の前 ページ29
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通夜を終えた夜は、まるで盆が早く来たみたいに、
親戚一同が集まっての大宴会が繰り広げられて、
奥の部屋で眠っている原田のじぃのそばには、
代わる代わる誰かが最後の挨拶へ向かったりして、
悲観的な空気はどこにもなくて、
むしろみんなでたくさんじぃの話しをして、
送り出す
そんな言葉がよく似合う素敵な最期なんだと、
少しずつ落ち着ける自分がいた。
そして大きな病気もせず、最期まで元気に生きたじぃを称えるかのように、
「子、孫孝行なじじぃだったな」ってみんなで笑った。
次の日の朝、葬儀の日。
いくら原田家が広いとは言っても
喪服を着た集団と、たくさんの花と、大きな棺と……
それらが詰まった部屋はどことなく息苦しくて、
わたしは和くんの足元から離れずに、ずっと傍に寄り添っていた。
火葬場に運び出すまでの儀式は
当時のわたしには到底理解は出来なくて
そして相変わらずめそめそと鼻を啜っていて、
「いつまで泣いてんだよ？」って、父には困った顔をされた。
出棺の時、まだまだ古い風習のあるこの田舎、
棺の釘打ちを、そこにいる全員が順番に行っていく。
蓋が閉められ、添えられた釘に、
石を使って数回打ち込む。
終わればその石が、隣の人へと流れていく。
打つ人の加減によって、
打ち鳴らされる音も、速度もまちまちで、
カツン、カツンと打ち鳴らされる不規則な音だけが
今この場所を、支配していた。
石が、和くんの手元にまわってきた。
受け取った和くんが、少し、身を屈めて棺に近付く。
でも、釘を打つ音は響かない。
和くんは、石を握ったまま固まって
ただじっと棺を見つめていたかと思うと、
その目から、つうっと涙をこぼした。
それが合図だったみたいに、
和くんは身体を震わせ顔を歪ませると、
その場に、膝から崩れ落ちた。
嗚咽を堪えようと必死に閉じる口元から、
悲痛な叫びがもれて
それに感化された周りからは、
すすり泣く音が響き始めていた。
悲しい素振りを1つも見せなかった。
「お疲れ様」と、優しくじぃに微笑んでいた。
「ったく……」って、憎まれ口を叩いていた。
そんな和くんが、
原田のじぃの棺の前で、
肩を震わせ、泣いていた。
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作者名：あひる x他1人
作成日時：2015年5月8日 2時
