16話 一番愛する人 ページ17
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「帰りも本当に……気をつけて帰れな？」
ひどく心配と言った顔をして、
帰り支度をする潤くん一家にそう声を掛ける和くん。
潤くんのお父さんは、そんな和くんを見て笑うと、
「もちろんだけど、電車なんだから心配ないよ」
そう言って、荷物をまとめる手を動かす。
潤くんと和くんは、すっかり打ち解けていたけれど、
「ねぇ、連絡先教えてよ」
「あぁ、ゴメン。俺ケータイ持ってない」
「嘘だっ！？え、そんな人いるの！？」
「こんな田舎に住んでて使うわけないじゃない」
次に会うのは正月だね、なんて和くんに言われて、
潤くんは溜め息を漏らして眉間に皺を寄せていた。
「智子さんはケータイ持ってたよ。俺、連絡先聞いたし」
「そりゃ良かったね。俺と話したかったらそこ経由しな」
くふふ、と笑って腕組みをした和くんを見て、
潤くんは突然、真剣な表情を作ると、
「あのさ……」
って、低い声を出して、そして少し、目を伏せた。
何を言い出すのかと思ったら、
「……和也が本当に智子さんと結婚する気がないなら、俺、狙ってもいい？」
なんて、急にドキッとするような事を、潤くんは口にして、
何でそんな、そんな話し？って、
わたしは慌てて、和くんを見上げた。
和くんは、
んふふふふ、と楽しそうに笑って、拳で口元を隠すと、
「もちろん、どうぞ？俺には一番大切な子がいるからね？」
そう言って、わたしを、見た。
「……今の一番は、Aちゃん、てことね」
潤くんがそう言うと、
わたしを見たままの和くんの顔が、
「今も、昔も……そういうこと」
優しく、やわらかく、
だけど、寂しそうに……
歪んだ気がした。
わたし、
わたしは、知ってるんだ。
わたしの頭を撫でて、
そのままその手をわたしの頬に滑らせる和くんの左手の薬指に
和くんの一番愛する人が、存在してることを。
わたしの胸が、
またギュッと締め付けられた。
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作者名：あひる x他1人
作成日時：2015年5月8日 2時
