11話 天野町の天邪鬼 ページ12
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side潤
その昔、この町には鬼がいた。
その鬼は年をとらなかった。
なぜなら山奥に湧くという不思議な泉の水を毎日飲んでいたから。
鬼というのは世間一般では
悪いものとして認知されていたけど、
この町に住むこの、1匹の鬼は、
年をとらずに、永遠に、
この町が豊かであるために存在していた。
しばらくの間は、ただただ平和な日々が続いていたのに
いつからかこの町の人間は、
年をとらないこの鬼を、
羨みと妬みの対象として見るようになり、
ついにはその鬼の後をつけて、
山奥にある不思議な泉を発見する事になる。
人々は煽るようにその泉の水を飲み、
瞬く間にその身体を、子供の者へと変化させた。
秩序を保ち、規律を守り、
生きていく為に働いていた大人を失った町は
あっという間に朽ちていく。
子供達は鬼に教えを請う。
生きていく術を教えて欲しいと。
だけど鬼は、その訴えを聞き入れはしなかった。
“愚かな民は滅べばいい。もう二度とこんな事が起きないように、
泉の水は、寿命を削る泉に変えておいた。その証拠に、
わたしはこれからもその泉の水を飲み続けよう。
わたしが朽ちていく様を、その目に焼き付けるのだ”
鬼は、日ごと年を取り、息絶えた。
その後のこの町は、少しだけ残った若い青年達の手で
少しずつ豊かさを取り戻し、
泉の水の存在も、場所も、もう誰も口にはしなくなった。
「だけどね、鬼の話しはどうやら嘘だったらしいんだ。
寿命を削る泉に変えたんじゃなくて、ただ単純にその泉の水を
鬼は飲むことをやめたんだ。
そうしてどんどん年を取り、鬼は死んでしまったんだね」
和也がそう話し終わるよりももっと前に、
和也の娘はもう、夢の中にいた。
その娘の頭をなでる時の、和也の優しい瞳は
夜空に光る満天の星空のせいか、輝いて眩しい。
「心を鬼にして嘘をついたコイツが
天邪鬼の起源だとかそうじゃないとか……」
和也が、笑いながら俺を見た。
すごい、意味不明な話しだけど
「その鬼って、まさかおまえ？」
「え、俺ぇ？」
「ぽいよね。あんたそういうヤツだよね」
「生意気な子だねぇ(笑)」
なんだかそう思えて、仕方がなかった。
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作者名：あひる x他1人
作成日時：2015年5月8日 2時
