プロローグ ページ1
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小さな小さな田舎町。
ここにいるのは平均年齢65歳のじじ、ばばだけ。
わたしが小学生の時は、隣の隣の隣の街の学校へ通っていた。
そこでも生徒数は全校生7人で、
わたしが6年生になった時には、わたし1人しかいなかった。
周りに同世代の子なんて1人もいなくて、
遊び相手はもっぱら父と、
隣の家で両親の世話をしている、
35歳の智子ちゃんくらいなものだった。
そんなわたしが中学生になる春。
父が突然「東京へ行くぞ」って言い出して、
わたしは東京の中学校へ通う事になった。
父は、家にあった全てのものを処分して、
持って行くものは少しの着るものと、
ボストンバッグいっぱいの現金と……
左手の薬指に光る、結婚指輪だけだった。
飄々としていて、様々な物事に執着しない、
自身のおしゃれだとか、容姿には無頓着な父の
指に光る指輪は、父にはとても不似合いな代物に見えた。
それでも父が、その指輪を外しているところを見た事は殆どなくて
よほど、大切なものなのかと思うと、
なぜか胸が締め付けられた。
5時間に1度だけ来る電車を待つのに
無人駅にいるところへ、
智子ちゃんが見送りに来てくれた。
「泣くなよ、智子」
そう言って、父が智子ちゃんを抱きしめた姿は、とても印象的だった。
2人は……結婚してもおかしくないくらい……
仲が良かった気がする。
智子ちゃんは父より8つも年上だったけど、
父のほうがずっとずっと大人に見えた。
わたしがいるから、結婚しないの？
子供ながらに、そう聞いたことがある。
すると父はこう言った。
「そうだよ。お前がいるから、俺は誰とも結婚しないよ。
後にも先にも、愛してるのは、お前だけだから。」
その言葉は、わたしの胸を締め付けた。
締め付けられる胸のワケを、
今も、昔も、まだ理解できていない。
「父さん、智子ちゃんと別れるの寂しい？」
「お前がいるから平気。つうか、父さん、じゃなくて、かずくん、な。
何回言ったら覚えるの？」
智子ちゃんに見送られた電車の中で、父が笑った。
これは、
わたしとかずくんの
100年以上続く
愛の物語―――
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作者名：あひる x他1人
作成日時：2015年5月8日 2時
