113 ページ13
.
「ヤブ、……今からでも、」
「オレにはヒカルしかいない。ずっとそう言ってるだろ……」
ヒカルがヤブを見上げます。
ヤブがヒカルが普段被ったままのフードを外すと、まるで魔法が解けたかのようにそこにあったはずの銀の髪が消え失せ、茶色の短い髪をした男性が現れます。
周りの者はみな女性だと思っていますが、そうするとヒカルはごく普通の男性。
けれどその男性を、ヤブは愛しているのです。
ヒカルの変わらない大きな瞳に涙が浮かんでおります。
ヤブはそっとヒカルを抱き寄せました。
ヤブの胸で、ヒカルは静かに涙を流します。
国を立て直すヤブにずっと寄り添ってきたヒカル。だけどこれ以上は本当に迷惑になる。
ヤブの為だけでなく、国の未来の為に。
そんな思いがヒカルを占めていました。
生まれ育ったスークでの暮らしよりも、王妃として長く過ごしたかの国こそが今となっては我が祖国。
ヤブを大事に思う気持ちと同じくらいにこの国が愛おしいのです。
ヤブもまた、そんなヒカルの気持ちが痛いほど分かるからこそ、この抱き寄せた身を離すことなんて絶対にできない。
絶対に。
そう思うのです。
ヤブは、秘めていた考えを今こそ話すべきだと思いました。
「……ずっと、考えていたことがあるんだ。王位のことなんだが、ヤマダに譲れないかと」
「ヤマダに？ あの遠国の……」
「親戚筋だから血筋はなんの問題もない。まだ若いが、しかし若いが故に勢力的に国をまとめてくれるだろう。どう思う？」
「で、でも……それじゃヤブの、」
「それ以上は言うな。言わないでくれ。オレはヒカルを選んだ。他の人など選ぶ余地もなく。それが答えだ」
ヤブ。
ヒカルはそう呟き、もう一度ヤブの胸に顔を埋めて、静かに泣き出しました。
この人にどれだけ愛されているのだろう。
そして愛しているのだろう。
ヒカルはそれを強く思います。
ずっと一緒にいたい。何を犠牲にしても、絶対に。
ずっと……ずっと…………。
だけどそんなこと、本当に許されるのだろうか。
「……その為にはオレが必要なんじゃなぁいぃ？」
突然聞こえた陽気な声。
ふたりは顔を上げました。
窓の外、闇夜を背景に浮かぶその顔は————
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 111人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
SK329(プロフ) - なえさん» ありがとうございますっ！ソース入れ、きっと夢心地な乗り物でしょう（乗り物？笑）最近ご本人たちのプロデュースがまるで二次創作なので負けないようにこれからもがんばります笑 (2021年7月22日 11時) (
レス) id: 56bbba7c64 (このIDを非表示/違反報告)
なえ(プロフ) - 遅くなりましたが、完結おめでとうございます。ハラハラドキドキしながら読んでいました。ソース入れでの世界ではきっと楽しく過ごしているんだろうなぁ。素敵なお話ありがとうございました。 (2021年7月20日 19時) (レス) id: 1437478d94 (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - ひーさん» ありがとうございますっ！ソース入れの中はきっと部屋も別れていて快適でしょう笑 裏も開始しましたので、楽しんでいただけると嬉しいですっ (2021年7月20日 10時) (レス) id: 56bbba7c64 (このIDを非表示/違反報告)
ひー(プロフ) - 完結おめでとうございます!最後の妖しげな雰囲気にドキドキしましたが､イメージされた曲のように二人は足跡も残さずに幸せに旅立ったんですね｡裏も楽しみにしてます♪ (2021年7月16日 12時) (レス) id: a9133940c3 (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - ずみさん» ありがとうございますっ♪ 終わり方褒められるの嬉しい…(*/ω＼*) 魔法の世界だから永遠はあるのです！笑 裏もがんばりますっ (2021年7月13日 15時) (レス) id: 4bd0a1eb37 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：SK329
| 作成日時：2021年6月10日 14時
