魔の山２

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あの時倒れたヒカルは、イノーとダイキによって部屋に運ばれ寝込んでいるらしい。
意識はあるよ、寝ていれば大丈夫とイノーは言う。
だがこの土牢には一度も顔を見せなかった。

ヒカル……。
ヤブは頭を抱えた。

本当にオレは。
いったい。


「オレはあいつのこと、本当にどうでも良いって……思ってたんだ……」


ぽつりと呟く。
ユウヤに聞かせる為なのか自分への言い訳か、ヤブには分からなかった。
ただ思いが口から零れるのを止められなかった。


「城でぬくぬくと育った甘ちゃんの騎士――いや姫か？ 騎士とは名ばかりな。物知らず故に怖い物知らず。命を奪ったことさえない。いつだって見捨てるつもりだった、本当だ」

「好きになっちゃったんでしょ」


ヤブは顔を上げる。
ユウヤが優しく微笑んでいる。


「途中からオレずっと思ってたよ。ヤブくん、ヒカルくんのこと好きすぎるーって。オレと旅に出てからはじめてだよ、あんな顔のヤブくん」

「ど、どんな顔だよ」

「えぇ。そんなの簡単だよ。人を好きになった顔」


好きに。
ヒカルを好きに。

好きに、なった……。


「あ、あいつは、男だぞ――いや、ちょっと良く分かんねぇとこもあるけど、あいつ的には男だろっ、そんな好きとか、」

「えー、いいじゃん別に、そんなこと関係ないでしょ。男でも姫でもさぁ。オレ思うんだけど、ヒカルくんもヤブくんのことすっげー好きだと思うな」

「なんだよ……それ……」


鼻で笑おうとしたけれど上手くいかなかった。

だが王を――父親を庇おうと自分と剣を交えたヒカルのあの瞳。
姿形が女の身でもそこだけは変わらなかったあの大きな瞳を思い出せば、それを否定できない自分がいる。

あんな苦しげな瞳。ヒカル。
ヒカル。
オレは―――。



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