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不埒にも林檎を狙う者が現れるやもしれませぬ。
ヤブはそう訴えて、謁見の間への帯刀を願い出、許された。
それが狙いだとも知られずに。
閲覧の間へ向かうヤブとユウヤの前を、豪奢な正装に身を固めた騎士が先導していく。
王直属の親衛隊だろう、背後にも数人。沈着冷静な腕利きばかりのようだ。
そして改めて思う。
ヒカルはこの城の騎士ではありえない………。
ここの騎士たちとは雰囲気がまるで違う。
あの端正な顔。そこに浮かべる屈託のない笑顔。
あれは何? あれは何? とまるで子供のように。
そしてその子供っぽさと比例しない、見事な剣の腕前。稲妻の魔道。
ヒカル、おまえは――。
いや、もうヒカルのことは忘れる。
オレたちの請願。この扉の向こう。さあ開く。
ユウヤから渡された、胸に抱えたふたつの金の林檎。
「おお、勇者ヤブ殿!! 見事大役を果たされた!」
貴族や騎士たちが列をなす謁見の間の最奥、王が王座から立ち上がり両手を広げてヤブたちを迎い入れた。
ヤブも丁重に頭を下げる。
「王よ、これが金の林檎でございます――竜の炎をかいくぐり手に入れたる、なんの願いをも叶う魔法の林檎。恐れながら是非我が手より陛下に直接お渡ししとうございます」
「無論だとも。さあさあ近う。姫たちも林檎を待ち望んでおったぞ。なぁケイ。ヤオトメ」
そう言って王は、背後の柱の影にいる姫たちに笑いかけた。
その笑いが何故か下卑て聞こえるのは気のせいか?
ヤブの視界に入る、美しい顔を強ばらせたふたりの姫君。
竜の話が恐ろしいのか? それとも。
ヤブはひっそり笑う。安心するが良い姫たちよ、オレはあんたらを貰い受けるつもりはない。
ヤブは恭しく林檎を掲げ、王に近づく。
王まであと数歩。
待ちきれない王が手を伸ばしたその時。
ヤブは林檎を握った腕で王の腕を掴み、一瞬で剣を抜いて喉元に押し当てた。
「誰も動くな!!」
一瞬上がった貴族たちの悲鳴は、ヤブの鋭い叫びに掻き消された。
一斉に剣を抜く親衛隊。しかし動けない。
ユウヤだけが剣を抜き、ヤブの元へ駆け寄った。
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SK329(プロフ) - ずみさん» コメントありがとうございますっ!やっぱり男子が良いですよねぇ、ドレス姿になるにはいつも羞恥が欲しいです笑 まだなにも浮かんでませんが、次またファンタジーやったらまたまた雷になりそうな予感があります笑 (2019年12月11日 11時) (レス) id: f6c245c48e (このIDを非表示/違反報告)
ずみ - 完結おめでとうございます!sk329さんのファンタジーは毎回ワクワクさせるもの。雷の設定がだいすきです。やぶひかは男にしてくれてありがとう! (2019年12月10日 1時) (レス) id: 61e430b579 (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - なえさん» コメントありがとうございますっ!dkwk嬉しいですっ物語が破綻しないで良かった(*´∀`*) 続編もよろしくお願いいたしますっ (2019年12月9日 13時) (レス) id: f6c245c48e (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - ひーさん» コメントありがとうございますっ!雷、なんかイメージに合うんですよね!火より雷。単に黄色だから?笑 双子設定も楽しく書けたのでそう言っていただけると嬉しいですっ。続編もよろしくお願いいたしますっ (2019年12月9日 13時) (レス) id: f6c245c48e (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - しろくまさん» ありがとうございますっ!父と子…確かに。でも気づけば勝手になんです、多分書きやすいのです笑 王国は明確にモデルいましたが、かごめと今回は単にやな奴ですね汗 そしてパレード、ラストの竜のとこ恐れ多いけれども合う…と思ってしまいました汗 (2019年12月9日 13時) (レス) id: f6c245c48e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:SK329 | 作成日時:2019年10月8日 16時