若きオイディプスの悩み

35 ページ35

.



大好きだった。
ヒカルの優しい声も。


『お空からざーざー雨がたくさん、ぴーたんびしょぬれさぁ大変！ そこへやぶんぶんがびゅびゅーんと飛んできて、ぴーたんだいじょうぶ？ ゆーやせいばーが雨をとめてくれたよ。わーありがとお、ゆーやせいばー、やぶんぶん。
ぼくらは雨にもまけないぞ！ さんびきは仲良く飛んで、みんなのおうちへ帰りました』

『おうち！ おうちにはなにがあるの！？』

『おうちではねぇ、料理のじょうずなくるすけがあっつあつのスープを作って待っててくれるの。そして９ひきそろっていただきます〜』

『ひかるっ、すぅぷってなに？ おいしいもの！？』

『リョウスケ……』


見上げたオレに、ヒカルが驚いた顔をしてそれからすっごく優しい顔で笑った。


『うん。すっごく美味しいよ。一緒に作ろうか。ヤブが帰ってきたら３人で食べよ？』

『うん、たべるっ！ ひあるとやぶとたべるっ！！』


それまでもオレはヤブとヒカルにご飯を食べさせてもらっていた。
だけど一緒に作るのははじめてで――、皮を剥いたり鍋をかき回したり、そんなことがすごく楽しくてずっと笑ってて。

できあがる頃にいつもヤブは帰ってくる。
ちいちゃいおこたの上にぎっしり並んだ美味しい物。
優しいヒカルと、かっこいいヤブの笑顔に囲まれて。

オレはそれがすっごくうれしくて。
楽しくて。

楽しくて。




だけどオレはその日、すぅぷを食べることはできなかった。
うん、できなかった……。

母親が迎えに来て、オレを無理矢理引き剥がした。
せめてと渡された手作りの絵本は母親にビリビリに破かれて、そして……






『いたいいたいよぉ……たすけて……ひかる…………やぶ……………』






その後起きた出来事は―――――












明日の朝目覚めたら、オレは多分この夢を忘れてしまっているだろう。
きっと忘れる、いや忘れよう。


　
覚えていて良いのは温かい家族のぬくもり。

コウタとヒカルの笑顔だけでいい…………………。









第一部完

.

あとがき→←34

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す