76 ページ21
.
愛している好きだと言って、でもそんなものでヒカルを縛る権利はオレにはない。
ヒカルにとって、あの絶望の日々の中で唯一の温もりだったオレ……、
だけどこの美しい庭で、ヒカルはいろいろな温もりを知った。
無条件で愛される喜びを知ったはずだ。
オレと男同士で、この先肩身の狭い思いをしなくったって良いんだ……。
ヒカルの両腕を握ったままそんなことを考えて、だけどオレはその手を離せなかった。
どうしても離せない。
だって、オレだって――――。
ふと顔を上げる。
ヒカルがオレがオレに向ける笑み……。
無垢な魂。
まだ記憶が戻る前のヒカルを見て、思わず口にしていた言葉が蘇ってくる。
ヒカルはとても穏やかな笑みを浮かべていた。
雪の中で、まるで空から落ちてきた天使のように、美しい笑みを浮かべていた。
「やぶ？ やぶはオレと違ってずっと自由だったよね。頭良くて凄い努力してお医者さんになって、あんな街にいる必要もなくてどこか遠くへ行くことだってできたのに……、今だってオレのことなんかすっかり忘れていつだって自由に生きられるのに……。
なんで？ やぶはオレの腕を握ったままなの？」
「オレは……この手を、離したら……」
ひとりだ。
オレこそ、たったひとりなんだ。
絶望の日々の中でヒカルがオレを見つけたように、オレも孤独な日々の中でヒカルを見つけたんだ。
オレたちの日々は……孤独に生きてきたオレたちが、ただ互いを見つける為にあったもの……。
たとえどれほど自由を得ても、運命の相手はたったひとり……。
この世界に、それは砂の中で宝石を見つけるくらいに偶然の連続で。
「泣かないでやぶ。オレはどこにも行かない。オレやぶを選ぶ――やぶを選びたい。やぶのそばにずっといたい――
だって、愛してるから」
思わず、ヒカルを強く抱きしめた。
嗚咽をあげるほどに泣きながらオレは、ああ、ヒカル……ヒカル。
ヒカルがオレの両頬を挟んで顔を上げ、唇を近づける。
「ごめんねやぶ……やぶのこと忘れて……。寂しかったね……もうオレ、やぶのそばから離れないよ……絶対に」
久しぶりの口づけは雪のせいで冷たく、それでいて沸騰するほどに熱い。
オレたちの半年ぶりのキスは、オレの涙の混じった苦いキス―――
それでいてこれ以上ないほどに甘いキスだった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 168人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
SK329(プロフ) - junchan0330さん» コメントありがとうございますっ！キュンキュンなど、普段あまり言われ慣れない感想で照れるやら嬉しいやらです、ありがとうございます！ 続きにはナイスなお友達3人（以外も？）いっぱい出てくる予定です〜 (2018年4月30日 15時) (
レス) id: cdd590872e (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - marinoさん» コメントありがとうございますっ！ 綺麗で幸せと感じて頂けて嬉しいです…島エンドはずっと考えていたので綺麗に形にできて自分でも良かったなぁなんて思います。やっぱりヒカルさんは強くて真面目な部分もとても素晴らしいですよね！ (2018年4月30日 15時) (レス) id: cdd590872e (このIDを非表示/違反報告)
junchan0330(プロフ) - 最高に幸せな光景でした。ヒカルくんが楽しさを感じる事に遠慮してしまう初さ、ヤブくんの直球で包容力の大きさ、キュンキュンしました！お友達3人もナイスでした(笑)ヒカルくん編も楽しみにしております(^^) (2018年4月28日 13時) (レス) id: 47d1bff47c (このIDを非表示/違反報告)
marino(プロフ) - とても綺麗で幸せなラストに自然と涙が溢れます。長いお話の1話1話がとても楽しくて終わりは寂しいですがまだ光くん編があるのが嬉しいです！薮くんと光くんのラブラブなシーンにときめきケイトとの文通にはほっこりしました(´∀｀*)強くて真面目な光君は私も好きです！ (2018年4月27日 16時) (レス) id: c46cc497fd (このIDを非表示/違反報告)
SK329(プロフ) - junchan0330さん» コメントありがとうございます！ はい、終わりました笑 そしてそのままヒカルさん編に続きます…一度もヒカルさん側からなかったですから私も書きたかったのです。また楽しんで頂けたら嬉しいですっ (2018年4月27日 15時) (レス) id: cdd590872e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：SK329
| 作成日時：2018年4月3日 14時
