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震える指で、青いマークをタップした。すぐにスマホが振動して、ぷるる、と音を立てる。こんな非日常的なことが起こっているのに、それはいつも私が電話をかける時と変わらなくて、ちょっと安心した。
暫くスマホは振動し続けた。駄目なんだなぁ、と他人事のように思って。諦めきった目で、彼の名前が表示されたスマホを見続ける。
__と、その時だった。振動が、ぴたりと止まって、がさがさという音質の悪い音が鳴り響く。びっくりしてスマホを落とすと、なになに!? と彼の声。
……うそだ、と思って震える手でスマホを拾い上げる。
「……たら、ちゃん?」
「そうだけど……どうしたの、A。俺、今やばいところいるから簡潔にお願い」
嘘、嘘嘘。何でつながるの。まだ、彼は生きてるの?
安心と不安を同時に感じて、頬に涙が伝う。たらちゃんはまだ生きていて、多分私と同じく逃げているんだろう。そういうのは、容易に想像できた。正直、逃げる以外に生き延びる方法は、この状態になってからはもうないのだ。
震える唇で、震える声を発する。
「……ごめん、要件は特にないんだけど」
「えぇ、そうなの?」
「う、うん。ごめんね。自分が安心したいだけでたらちゃんにかけちゃった」
マジかぁ、と彼の笑う声が聞こえる。電話口からは、恐らく彼の場所からであろうホワイトノイズが鳴っていた。彼の声はいつも通りで、でもちょっとだけ、震えているみたいだった。
でも、何故か安心できた。彼と最後に話せたことが、嬉しかったのかもしれないし、彼の声を聞くとで安心することが出来たのかもしれないけれど。
ホワイトノイズが、強まっていく。気が付いたら私の場所も、相当大変な場所になって来たらしい。近くまで、ホログラムが近づいてきている。
「……俺、そろそろヤバそうだから切っていい?」
「私もやばそうなんだよねぇ、もう30秒とかしたら私しにそう」
笑いを含むような声でわざと言ってみると、笑いどころじゃないじゃん、と彼も言い返してくる。しぬのも消えるのも怖かったけど、逃げる気はなかった。
ふぅ、と息を吐いてホログラムを見つめる。本当に、ホログラムは私のすぐ近くまで迫ってきた。下唇を噛みながら見上げると、不安感も高まる。
「たらちゃん、じゃあ私切るね」
「おっけ〜、それじゃ、またね」
またね、と言って、電話を切る。
__また、があることを願って。
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ぴすけっとの遊び場(プロフ) - りゃまさん» うわ〜!!コメントありがとうございます🙇♀️ 毎回お題に工夫を入れたり、言葉選びには気を遣ったりしているので、そのお言葉とっても嬉しいです🙌 これからも頑張ります……!!嬉しいお言葉、本当にありがとうございます!!!! (2021年12月13日 19時) (レス) @page4 id: af576e9416 (このIDを非表示/違反報告)
りゃま - 初めまして、! お話の構成、言葉選び、口調等々、とても好きです! お話の設定された題材等、とても大好きです…… 個人的にとても大好きです、これからも頑張って下さい! (2021年12月13日 0時) (レス) @page4 id: b71400f95b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:健康優良児ぴすけ | 作成日時:2021年12月5日 17時