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荒廃 [cs] # ページ12



更新できそうなので
季節外れ
「your」(trさんのお話)と同じ世界線です。
世界が滅ぶ10分前くらいのお話






 私も先輩も、全て理解していた。
 もうちょっとしたら、全てがなくなっちゃうこと。消えてしまうこと。知っていたからこそ、ずっと目を背けていた。
 ある夏の日。その日はやけに天気が良かった。じっとりとした汗が肌の上に浮かび、そこに風が吹き込んできてちょっと涼しい、そんな日。
 ニュースではもう諦めの言葉が浮かんでは消えを繰り返していた。ぼうっとエアコンの風を浴びながら、私がテレビを眺めていたときに、先輩から電話がかかってきたのだ。

「……あ〜、A。これやばそう?」

 彼は少し笑いを含んだ声でそう呟く。今思えば、先輩の声は少し震えていた。
 汗ばんだ手でもう一回携帯を握り直し、私も声を出した。

「う〜ん、う゛ん……どうでしょう」

 自分でもびっくりするような擦り切れ声が出て、思いっきり咳払い。先輩はそんな私の様子を気にもせず、どうだろねぇ、とオウム返ししてきた。
 蝉の声がじわじわと部屋の中に響く。誰かの悲鳴、奇声がそれに入り交じる。

「どうしようねぇ、俺たち」

「ほんとですよ、もう家から出ていこうにも人混みがやばすぎて出ていけないので、私は詰んでますね」

 しゃら、と風鈴が鳴る音。耳の奥で、先輩の笑い声が響いた。

「えぇ、それやばいじゃん」

 そうですよ、とつぶやきながら窓を開ける。より一層混乱の声が大きくなる。それと同時に涼しい風が吹いてきて、夏だなぁ、とか。そんなどうでもいいことを思う。
 人混みが目に飛び込んでくる。人々が発狂しながら走り出して逃げているのを見ると、どうやっても生き残れない、と言っていたニュースキャスターの声を思い出す。


「…………そめ先輩は? 逃げれそうですか?」

「うん、一応逃げれそう。だけど逃げるの無駄足だから逃げないわ」

「そうですか」


 汗が肌の上を滑る。先輩が暑いねぇと呟いた。本当ですよ、とぶうたれた声で返すと、ほんとだよなぁ、と先輩が笑いながら返してくる。
 思えば、私は先輩と話していたから混乱せずにすんでいたのかもしれない。先輩の落ち着いた声が、私の一時的な精神安定剤代わりになっていた、と思う。

 ざわめきが一層大きくなった。私の家の前に大きな影が差す。悲鳴も、足音もより一層大きくなる。


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ぴすけっとの遊び場(プロフ) - りゃまさん» うわ〜!!コメントありがとうございます🙇‍♀️ 毎回お題に工夫を入れたり、言葉選びには気を遣ったりしているので、そのお言葉とっても嬉しいです🙌 これからも頑張ります……!!嬉しいお言葉、本当にありがとうございます!!!! (2021年12月13日 19時) (レス) @page4 id: af576e9416 (このIDを非表示/違反報告)
りゃま - 初めまして、!  お話の構成、言葉選び、口調等々、とても好きです!  お話の設定された題材等、とても大好きです……  個人的にとても大好きです、これからも頑張って下さい! (2021年12月13日 0時) (レス) @page4 id: b71400f95b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:健康優良児ぴすけ | 作成日時:2021年12月5日 17時

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