伍拾仇幕 ページ14
そろそろ花火が始まるらしい。
今年は風もないので、夜空に綺麗な花を咲かすことができるだろう。期待の声が飛び交い、さっそく道の端に留まる者もいた。
そんな中を通りながら、Aと優真は祭りを満喫していた。
焼きそばやたこ焼き、綿あめを食べ歩いた。金魚すくい、投げ輪、射的などをやっては景品を片手に持った。
舞台の上でしかできなかった祭りを初めて体験した二人にとって、"楽しい"という言葉以外なかった。
「楽しいな。次はどこ行こっか」
優真の瞳はまだ輝きを絶やさない。
まだまだ遊び足りない様子で辺りを見渡している。
そんな彼の横で、Aは「うん」と言いながらも俯き気味だった。
声がするのだ。
"起きろ"という、誰かの声が。
まるで意識の外にある扉を叩かれているように。
雪の羽織を見てからだ。何かがおかしい。
疲れには慣れている筈だが、今日は特に感じているのだろうか。
幻聴だろう、と意味はないが首を横に振る。
「A」
優真から名を呼ばれ、顔を上げた。
様々な事に気が付く兄の事だ。きっと考え事をしているAに気づいたんだろう、と勝手に推測する。
その推測は、間違っていた。
「本当は気づいてるんだろう」
ぐらり、と視界が歪む。
火傷の痕の疼きが加速していく。
「なにを」と言ったつもりだったが声にならなかった。
周りにいる人々の声が聞こえない。下駄の音すら聞こえない。
雪のような静寂が二人を包み込んでいる。
「目を閉じてはいけないよ。耳を塞いではいけないよ」
Aに言い聞かせるようにゆっくりとした速度で、けれど声色は相変わらず優しく。
優真との距離はいつの間にか離れていた。
「やるべき事をしておいで」
突如、火柱が上がった。
オレンジ色に包まれたAは思わず手を伸ばす。だがその手は届かず、視線の先では優真が変わらない笑みを浮かべている。
_まって。まって。まって。
もう視る事のないこの姿。
もう聞く事のないこの声。
もう触れる事のないこの暖かさ。
もう香る事のないこの匂い。
もう感じる事のないこの優しさ。
もう叶う事のないこの瞬間。
凡てが愛おしかった、離れがたい唯一の存在だった
「起きろ、A」
そう言って、伸ばす手をしっかりと掴んでいた。
193人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
RANA(プロフ) - 姫歌@暫く浮上出来ませんさん» ドはまりしました!!よかったら読んでくださいな。また語り合おう (2020年3月11日 21時) (レス) id: 37ff009e06 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌@暫く浮上出来ません(プロフ) - RANAちゃんが、鬼滅を書いている!私も鬼滅ハマりました…また、お話ししてください (2020年3月10日 13時) (レス) id: 032e885983 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:RANA | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php?svd=seb
作成日時:2020年2月22日 13時