伍拾捌幕 ページ13
はらはらと降る雪。
提灯の明かり。
客を呼び込みをする店員達。
行き交う人々の賑やかな声。
優真の隣を歩きながら、Aは物珍しそうにきょろきょろと辺りを見渡した。
今日は年に一度の"冬祭り"。
必ず雪が降る日に開催される伝統ある祭りだ。この時期にやるのは珍しいので地方から多くの人が来て、一晩中賑わう。
それを聞いていた優真は気分転換にとAを誘ったのだ。
普段は行き先でもむやみに外に出ることはないが、両親は現在食事会へ出かけている。夜遅くまで帰ってこないと聞いたので、両親には秘密裏に連れ出していた。
つまり、Aにとって初めての祭りになる。
微笑ましそうにAを見る優真は、近くの屋台を見て「あ」と呟く。
「りんご飴だ、甘くておいしいらしい。食べる?」
視線の先には、水飴で包み込まれたりんごがあった。縁日や祭日の定番だが、二人は初めて見るものであり初めて食べるものである。
Aはこくりと頷き、二人で屋台の前に立つ。
「すみません。りんご飴二つください」
りんご飴の屋台を経営しているのは中年の夫婦だった。快く「はいよっ」と釣りを受け取り、りんご飴を二つ手渡す。
夫婦とも気さくな性格だからか、「兄妹かい?」「別嬪だねえ」と話しかけてくる。
「おや?あんたら、よく見たらこの明日近くの劇場に出る子達かい?」
頷く優真に夫婦が目を輝かせ、話を続ける。
優真はそれに笑顔で答えていた。
その横でりんご飴を齧るAは、おお、と感動する。きなこ餅には劣るが、このりんご飴も中々に美味しい。
あの家にいればこういう食べ物を口にする機会はないので、優真には改めて感謝しなければいけないなと思う。
誰かと肩がぶつかってしまった。「すみません」と横に視線を向ける。
視界の端で、雪の結晶が描かれた羽織が揺れた。
違和感を覚えた。
瞬きをして、辺りを見渡すがその羽織を着る人物はもういない。なぜか、焦燥感がじわじわと募っていく。
_なんだろう…
火傷の痕が、ちりっと疼いた。
思わず腕を掴むと、「A」と優真が顔を覗き込む。
「どうした?何かあったか?」
『いや。なんでもないよ』
_雪の幻覚だね。きっと。
そう笑えば、心配そうな表情は変わらないが優真も笑みを浮かべる。
「歩こうか」と再び歩みを揃えた。
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RANA(プロフ) - 姫歌@暫く浮上出来ませんさん» ドはまりしました!!よかったら読んでくださいな。また語り合おう (2020年3月11日 21時) (レス) id: 37ff009e06 (このIDを非表示/違反報告)
姫歌@暫く浮上出来ません(プロフ) - RANAちゃんが、鬼滅を書いている!私も鬼滅ハマりました…また、お話ししてください (2020年3月10日 13時) (レス) id: 032e885983 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:RANA | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php?svd=seb
作成日時:2020年2月22日 13時