【d!】それではご主人さま、拳をどうぞ【tn】

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｢どいつもこいつも、"専属メイド"に一体どんな夢を見てやがったんですかね。人の顔を見て残念がるなんて最低最悪です……｣


　ぶつくさと文句を垂れながら先輩メイドのお手伝いとして庭の掃き掃除をしていた。そりゃ文句も言いたくなる。昨晩のゾムは初対面で貧乳と罵倒されたし、シャオロンもあの反応。鬱なんかは頭のてっぺんから爪先まで遠慮なしにじっとり観察した上で笑顔を繕ったのだ。抓られた程度で済んだことを喜ぶといい。


｢何が足りなかったってんでしょうね。専属メイド……大人の魅力？ 母のような包容力？｣


　専属という言葉は少し特別感がある。何ならプロフェッショナルな雰囲気すら感じる。けれど知っての通り私はこの手のど素人であり、世話役としての貫禄など毛程もないだろう。彼らが残念がっていたのはそう言った部分にあるのかもしれない。


｢う〜ん、童顔なのは認めましょう……大人の魅力を出すのは難しい。ならばせめて身丈に合った愛嬌くらいはあった方がトントンさまも親しみやすいかもしれない……｣


　バサバサ。箒で足元を掃きながら窓ガラスに映る自分をジッと見つめた。そうしてにっこり、笑ってみる。私はきっと上手に笑う方だ。ほらほら、笑うと結構可愛いかもしれない⎯⎯⎯


｢な、何しとんの…？｣
｢ヒョッ｣


　突然掛けられた声に大きく肩が跳ねて握っていた箒がカランッと地面に転げた。窓ガラスに映るのは間抜けな顔をする私と、怪訝そうな表情で私を見る背後の、トントンさま。


｢と、ととととんとんさま、ごごご機嫌麗しゅう｣
｢お、おん。かなり不気味な光景やったから、思わず声かけてもうたわ……｣
｢不気味｣


　いや、まあ、確かに窓ガラスに向かって独り言を吐きながら笑うメイドの姿は不気味か。あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆ってしゃがみ込む。小さく｢すまん｣なんて困惑したような声の謝罪が聞こえたが、謝られると余計にこう…心が痛い。


｢……って、あれ…？ トントンさま、ここお庭ですよ｣
｢そりゃ知っとるけど｣


　暫く羞恥に打ち拉がれたあと、私はふとこの場に違和を覚えた。そっと指の隙間からトントンさまを見上げると、彼はてっぺんに昇る太陽の暖かな陽光に照らされていた。トントンさまが。引き籠もりのトントンさまが。今、外に立っている。


｢……トントンさまって、お外歩けたんですね｣
｢あんたは俺を何やと思っとんねん｣
｢私、今、ちょっと感動してます｣


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