一歩が百歩と違わぬ ページ8
.
ひりひり。痛む額を擦りながら今度こそトントンを睨む。五分ほど攻防を続けたわけだが、ようやく私が顔を上げられた時にはもうトントンは何食わぬ顔で戦隊モノアニメを見ていた。血管がぶち切れそうである。
｢ねえ、ちょっと、真剣に話し合わない？｣
｢答えははっきりしとるやんか。俺と、お前は、今まで通り。何にも変わらん｣
｢頑固だな、だからモテないんだって｣
｢……いや、お前は変わったか｣
｢うん？なんて？｣
｢馬鹿やなぁって｣
｢トントンが？｣
｢Aが｣
そろそろ私の固い拳がトントンの無駄に柔そうな頬にめり込みそうだ。しかしそんなことをすれば罵詈讒謗の雨嵐が私のひび割れた心を粉々に打ち砕きそうなので今のところはそっとしまっておくとしよう。
トントンはどうしてそこまで拒むのだろうか。幼馴染から、手を繋いでたった一歩を踏みだすだけ。なんにも難しいことはないだろう。その先に待っているのはどうせ、大して変わらない世界だ。目に見えている。
｢……わかった。好きな子いるんでしょ｣
｢はあ？｣
｢もしかして私に黙って既に彼女作ってたとか？うーんそれなら確かに私とは付き合えないよね。なるほどそういうことだったかぁ｣
｢納得しとるとこ悪いけど、俺に彼女が出来とったら真っ先にお前に報告しとるよ｣
｢なんで？｣
｢お前と違って俺はまともな恋愛してんねんぞって｣
｢いい歳してありもしない夢見るのやめなよごめんねトントンに彼女なんているわけな、あ"だっ！？｣
｢おー、空っぽの頭はええ音すんな｣
すぱこーん！と、ティッシュ箱で頭を引っぱたかれた。確かにいい音だ。いや喧しいねん誰の頭に脳味噌詰まってへんって？
｢もー！じゃあ一体全体何がそんなに不満だってのさ！｣
｢そんなことよりはよゲームしよや｣
｢……する｣
｢ん｣
なんで、なんでなんだ。トントンはまともにこの話題に花を咲かせる気は無いらしく、私の視界に新作ゲームのパッケージをチラつかせる。自分で｢俺のこと好きなん？｣なんて聞いたくせに、そんなのってない。
ないけど、
｢あっ、ちょ、タンマ！バリア！えんがちょ！｣
｢雑魚乙｣
ノリに流されやすい私は結局その日、大した話し合いをすることなくトントンとの熱い死闘に燃え尽きた。ボロ負けた悔しさを胸に日の落ちた帰路を歩くまで、トントンに振られたことや諸々の怒りなどすっかり忘れて。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 934人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
るな？ - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました！ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか！？ (2022年3月5日 2時) (
レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜！みんなドキドキしてくれ！の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…！本当にありがとうございました！ (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜！イッキ見！楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…！最後までありがとうございました！ (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
