熱気を連れる夢 ページ42
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⎯⎯⎯茹だるような暑さ、窓を締めきっていても喧しい蝉の声、汗でベタつく身体。見るもの感じるもの全てが夏を叫んでいたあの日の、夢。
「トントン、お前、告白しないのか?」
「こっ……はあ!? なんでそうなんねん!?」
「口を開けばあいつのことばかり、好きだと言ってるようなもんだろ」
今よりずっと幼いふたりの声、懐かしい教室、黒板に描かれたくだらない落書き。すぐにそんな景色が夢だと気づいた。 そうだ、これは高校生の頃。
「というか、グルッペンの口からそんな話題が出るとは思わんかったわ」
「思春期男児やぞ。俺だって恋バナのひとつやふたつくらいする」
「いや、ビビるくらいキャラに合ってへんよ」
「話を逸らすな」
いや、本当に合ってないから本当に可笑しい。懐かしい映像を見ているような感覚で、実際自分の身体はここにないようだから遠慮せずに声を上げて笑った。
ふたりしてお行儀悪く机に座って、トントンは片手に箒を持っていた。時間は十六時。きっと放課後の掃除当番だったのだろう。
この場にあの頃の私は居なかった。けれど会話から感じる妙な懐かしさは、なんだろう。少しずつ胸が圧迫されていくような、この息苦しさはなんだろう。
「Aに告白しないのか」
「っはは、ほんまやめてやグルッペン。マジで似合わへんって」
「お前がしないなら俺がするぞ」
「……は、?」
「似合わないと笑いたいなら笑え。臆病風に吹かれて何一つ行動できないお前の方が笑いものだと思うがな」
笑い声が響いていた教室は途端に静まり返る。逆に、私はグルッペンの言葉を聞いて煩いくらいの鼓動を脳まで反響させていた。
⎯⎯⎯違う、わたし、知ってるんだ。そう、そうだった。ふたりのこの会話を何処かで聞いていた。
「いいのか?」
「い、いいもなにも…俺に関係ないやろ、それ」
「……そうだな。お前らは"ただの幼馴染"だからな」
「せや、ただの、」
「Aが好きだ。だから伝えようと思う。本当に、いいんだな?」
「……」
これ以上、聞いていたくないような。そんな気がして仕方がない。この後何があったんだっけ、思い出すのも怖いなにかがあったんだ。なんだっけ、なんだっけ、
「⎯⎯⎯へっくし!」
突然、間抜けなくしゃみがふたりの会話を途絶えさせる。それは教卓の下からで、トントンのグルッペンが顔を見合せ、それからどこか気まずそうに視線を教卓へと向けた。
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るな? - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました!ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか!? (2022年3月5日 2時) (レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜!みんなドキドキしてくれ!の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…!本当にありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜!イッキ見!楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…!最後までありがとうございました! (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
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