【d!】幼馴染と恋する方法【tn】

向け合う背中 ページ19

.


｢私さ、トントンのことで知らないことなんてないって思ってた。誰よりトントンのこと知ってる自信があったの｣
｢……実際その通りやと思うけど｣
｢それが違ったんだなぁ｣
｢違う？お前が俺の何を知らなかったっちゅうねん｣


　たとえば、あの子に向けてた優しい笑顔とか。


｢……女の子の好みとか？｣


　尖らせた口から出たのは思っていたのと違うこと。素直に言えなかったの。あの子だれなの？君の、好きな子？だって、私が知らないような優しい顔、みせてたもん。なんて。いつもみたいに調子のいい声で聞いてやればよかったのに、知るのがちょっとだけ怖くって。


｢自分の気持ちに素直な子。真っ直ぐぶつかってくるような子。甘え上手な子。あとは、……そやなぁ｣


　彼がひとつひとつ言葉を零していくたび右ストレートで頬を殴られるような衝撃が襲う。なに、それ。
　私の口は素直を語らない。右へ、左へ、ひん曲がって可愛げのない言葉ばかりを彼に向ける。甘え上手？酒なんかなくったって、子猫のように擦り寄るような女の子のこと？はは、最高に私には似合わないじゃんか。⎯⎯⎯さっきの女の子は、全部に当てはまりそう、だね。


｢……もしかして私と正反対の特徴あげてない？｣
｢バレた？｣
｢ひどい。いくら幼馴染だからって、｣
｢今のお前とは正反対の子がタイプやな。まあ、Aみたいな方向音痴の猪も嫌いやないけど｣
｢だ れ が い の し し だ｣
｢いでで、っ！すぐ手出るとこほんま可愛くないな…！｣
｢トントンの方が手出すじゃんばか！童貞！おたんこなす！｣


　怒りまかせにトントンの脇腹を抓りあげ、ふんっと鼻を鳴らして背中を向ける。そんなに、そんなに私が可愛くないか。そんなに、あの子の方が可愛いのか。……知っとるわ、ぼけ。


｢……A。お前が寄り道ばっかするせいやぞ｣
｢……なに？｣
｢素直に、真っ直ぐ、こっちに来ればよかったんや。……おたんこなすはお前や、ばかたれ｣
｢……いみわかんない｣


　がさごそ、布団が擦れる音がして部屋の明かりが落ちる。小さくおやすみ、なんて声が聞こえて、私の肩まで布団が被せられた。……可愛くない私に優しくするな、泣いちゃいそうだ。

　同じ布団に入ってたって、きっと彼は私に背中を向けている。私も背中を向けている。誰よりも傍にいるのに、今、どんな顔をしているのか知らない。何を考えているのか分からない。私たちって、本当はこんな関係だったんだ。



.

目覚めの一撃→←恨みの矛先

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す