攻防戦場外より ページ17
.
｢うあーん、聞いてよとんと〜ん！｣
｢……な、ん、で、連れてきた…！｣
｢そいつがトントンの家に帰る、と道端で恥ずかしげもなく喚き散らすもんやから｣
｢とんと〜ん！｣
｢喧しい近所迷惑やろが！｣
私とグルッペン、ふたりでどんどんどん、と叩いたのはトントン家の玄関。お早い就寝だったようで、眠たげな目を擦りながら玄関を開いたトントンの腹に私はタックルをかました。
むにむに、腹に抱きつき勝手に柔さと温もりを堪能する私をトントンは怒りつつも引き剥がさない。何ならため息と共に大きな手が背を撫でる。
｢酒くさ……なに、ふたりで呑んどったん？ド平日に？｣
｢ああ。Aがめそめそと気落ちしててな｣
｢……なんかあったん？｣
｢お前のせいや｣
｢おれ…？｣
｢そんなことよりとんと〜ん！あやうくぐるに食べられちゃうとこだったよ〜！匿って〜！｣
｢…………は、？｣
｢さて俺は帰る｣
｢おい待てコラ｣
ふわふわ、ぐるぐる、歩いたせいでだいぶ酒が回っているらしい。一発言に思考時間など微塵もなく、口が動くままに言葉が落ちる。あれ、わたしいま、なんていったっけ？
背中を撫でていた手が離れる。かと思えば、今度はトントンの片腕がぐっと私の背を抱いた。あ、ぎゅってされてる。鼻を擽るのは昔から傍にあった、酷く安心する大好きな、匂い。
｢……どういうつもりやねん｣
｢どうもこうも、したいようにしただけだ。この通り失敗したが｣
｢……｣
｢眺めているだけは性に合わん。いつまでもくだらん意地の張り合いを続けているせいだ、そっとしまっていたはずの手が伸びてしまうのも仕方がない｣
うとうと、まぶたが重い。
｢⎯⎯⎯いい加減、俺に寄越せ｣
背を抱く力が強まって、なんだ、と顔を上げた。そこにあったのはどうしてか、鋭く前を睨む赤瞳だった。きゅっと眉を寄せ、どこか怒っているような、そんな色を表情に見せる。
あ、れ？なんか、くうきわるい？覚束無い意識に漂う私は全くふたりの会話を耳に入れていなかった。なんでおこってるの、そう聞こうとして、
｢誰にもやらん。絶対に、な｣
ぐんっと身体が、玄関の向こうに引きずり込まれ言葉は呑み込まれる。ばたん、と重々しい音を立て、背後の玄関は閉まったようだ。
｢……油断も、隙もないわ。ほんまに｣
唯一、その言葉だけがまともに私の耳を通過した。グルッペンの声は聞こえない。ふたりきり、腕の中。……あれ、なに、この状況？
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 934人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
るな？ - 序盤のほうからめっちゃ泣けてました！ドキドキもあるけど感動って作者様神ですか！？ (2022年3月5日 2時) (
レス) @page50 id: 12ba396496 (このIDを非表示/違反報告)
猫大好き - めっちゃ遅れました。完結、おめでとうございます!!私も、成功するかわかんないけど好きな人に、好きって言う勇気が付きました。ありがとうございます!! (2021年2月3日 19時) (レス) id: 932515d6d7 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - もちたさん» もちたさん、こちらこそ最後までお付き合いいただきましてありがとうございます〜！みんなドキドキしてくれ！の精神で書きなぐっていたのでそう言ってもらえてはちゃめちゃに嬉しいです…！本当にありがとうございました！ (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - ネこさん» ネこさん、コメントありがとうございます〜！イッキ見！楽しんでいただけたようでとっても嬉しいです…！最後までありがとうございました！ (2021年1月28日 22時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
もちた - ちょっと遅れてしまいましたが、完結、おめでとうございます...!こんなにドキドキできた作品は初めてです...本当に...ありがとうございます(た)...! (2021年1月26日 20時) (レス) id: d31df64977 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
