異変 ページ4
.
ふるりと寒さに足先を震えさせた朝。瞼を押し上げ、ぼうっと閉じられたカーテンの隙間から差し込む朝日を眺めた。
もう少しでAも起きる時間だろうから、俺も起きなくては。そう思いながらも、何故か身体を動かせないでいる。やけに、重たいのだ。気怠さを訴え起き上がる事を拒否する自分の身体にあれ、と違和感を覚えつつも瞼はゆっくりと下がっていく。
眠い、兎に角眠たかった。恐ろしい程の眠気に襲われて、俺を何処かへ引きずり込もうとその手を離さない。
「＿＿＿トンくんおは……あれ？」
不意にガチャリと開けられたリビングの扉と、彼女の声にはっと目を見開いた。その瞬間、あれだけ重たかった身体がふっと軽くなり、そして勢いよく布団の中から身体を起こす。
急に飛び起きた俺に驚いたのか、Aが「あ、起こしちゃってごめん」と呟いた。
「……？」
「トンくん？」
何だったんだろうか、さっきの異様なまでの怠さは。眼鏡がないせいでぼやけた視界の中にいるAを呆然と見上げる。
「トンくん、トンくーん？」
「…っえ、あ、」
突然目の前に迫ったAがひらひらと片手を振って首を傾げた。そこではっと意識が完全に戻される。「大丈夫？」と眉を下げる彼女に頷き返してからごしごしと目を擦った。
「……ちょっと、寝惚けとった」
「はい、眼鏡」
「ありがと、」
テーブルに置いていた眼鏡を差し出してくれたAからそれを受け取り耳に掛ければ、やっとクリアな視界に彼女の柔らかな微笑みが映される。
「おはよ、トンくん」
「…おはよう、A」
何気ない会話だ。なんて事ない、普通の。それなのに酷く胸が苦しくて、それでいて一杯の幸福を感じるそのやり取りを、俺はずっと探し求めていたような気がする。
うっかり伸ばしかけた手を抑え笑い返せば、Aは「支度してくるね」と言ってぱたぱたとリビングを後にした。
その背中を見つめながら俺も早く朝食作らないと、と立ち上がろうとすれば、その瞬間にくらりと目眩がして再び布団の上へと膝をつく。あれ、何だ、これ。チカチカと点滅する視界にぎゅっと目を瞑り、ふっと息を吐き出してから目を開ければ元の視界へと戻っていた。
「……どうしたんやろ」
何か、自分の身体が変だ。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 879人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜狐 - んもう好き……() (2021年7月3日 14時) (
レス) id: 587d00a7a2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - すみれいんさん» すみれいんさん、まさかの周回ありがとうございます…！完結から日の経った今でもこの作品を読んでいただけていることが心の底から嬉しいです…！；；；； (2020年12月27日 1時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - 再び読みにきてもう、やっぱり好きです (2020年12月20日 20時) (レス) id: a715f4eb82 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 宙さん» 宙さん、コメントありがとうございます〜！タイトルの意まで気づいていただけでとっても嬉しいです；；；；最後までありがとうございました！ (2020年9月2日 21時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 神作。なんて素敵な終わり方なんだあ！題名の意味3か4シリーズぐらいでもしかしてって思ったけど感動したーー！なんて素敵な作品なんだ！！ (2020年8月27日 19時) (レス) id: a1083db659 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
