不意の接触 ページ10
.
「…おいA、そろそろ起きろ」
背負った重みにそう声を掛けてみても、返ってくるのは耳元ですやすやと立てられる小さな寝息だけだ。
今日の呑み会で、Aは過去の仲間達の姿でも思い出したのだろう。泣きながら笑って、そんな彼女の姿に訳が分からずともあいつらは何処か満足そうにしていた。
しかし、まさか泣き疲れて眠ってしまうとは。「グルッペンが一番家近いやろ」と言ったコネシマのせいで俺が呑気に眠る彼女を背負って帰る事になったのだが、あいつ、俺の体力の無さを知らんのか。
何とか転けることなく辿り着いたAのマンションにやっとか、とため息を吐きつつあと少しの距離をゆっくり進んで行く。
「A、起きろ。着いたゾ」
「……ん、…」
「…はぁ。鞄開けるからな」
玄関前に着いても一向に目を覚ます気配がない。
……仕方ないか。記憶を取り戻す事が案外身体に負担をかけることを俺は身を持って知っている。Aはゆっくり順を追っているようだが、俺は一気に思い出したせいで丸一日寝込む羽目になった。あれは中々しんどかったな、と懐かしみつつAが握っている鞄を片手で漁り何とか鍵を取り出す。
どうせ明日は休みだ、ベッドに適当に放り投げて帰るとしよう。そう考えながら鍵を回し、そして重たい玄関扉を開いた。
「おかえり、今日はちょっと早かっ……へ、？」
「……は？」
部屋の中から聞こえてきたよく知るその声に、思わず呆気に取られ一瞬腕の力が抜けた。ずる、と落ちかけた背中の彼女を慌てて両腕で支え、片足で勢い良く玄関扉を蹴り開ける。その勢いにリビングから顔を覗かせ、驚いた顔で此方を見ていたあいつがビクリと肩を跳ね上げた。
「……説明してもらおうか、トン氏」
「……や、あの、……マジか」
俺は今、心底腹が立っている。勿論、状況に混乱もしていたが、あれだけ人を心配させておきながら何故、トントンがここに居るのか。
Aはまだ全てを思い出した訳ではない。二人のわだかまりが解けていない事くらい、今日一日のAを見ていれば分かる。
トントンが本気で悩んでいた事も、俺は知っている。あれが嘘だとも思えない。なら、この状況は何なんだ。
「……すぅ、」
あまりにも呑気な彼女の寝息に余計にキレそうだが、今はとにかくこいつをベッドに投げて、あの男からじっくり話を聞こうじゃないか。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 879人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜狐 - んもう好き……() (2021年7月3日 14時) (
レス) id: 587d00a7a2 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - すみれいんさん» すみれいんさん、まさかの周回ありがとうございます…！完結から日の経った今でもこの作品を読んでいただけていることが心の底から嬉しいです…！；；；； (2020年12月27日 1時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
すみれいん(プロフ) - 再び読みにきてもう、やっぱり好きです (2020年12月20日 20時) (レス) id: a715f4eb82 (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 宙さん» 宙さん、コメントありがとうございます〜！タイトルの意まで気づいていただけでとっても嬉しいです；；；；最後までありがとうございました！ (2020年9月2日 21時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
宙(プロフ) - 神作。なんて素敵な終わり方なんだあ！題名の意味3か4シリーズぐらいでもしかしてって思ったけど感動したーー！なんて素敵な作品なんだ！！ (2020年8月27日 19時) (レス) id: a1083db659 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
