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「っい、」
「すまん、すぐ終わるから」
消毒液の染み込んだコットンがぽんぽん、と傷口に触れた。流石に痛くて声を上げれば、少し笑ったトントンが手際よく手当を施していく。
向かい合うように床に座っていて、ぐっと縮まった距離で彼を見たら余計にトントン本人にしか見えない。表情も笑い声も、全部一緒なのだ。違いを見つける方が難しい。
「……ん、終わり。どうせ風呂入るんやろ?あとでガーゼ貼っとき」
「うん、ありがと」
「元はと言えば俺が悪いんやし」
まぁ、そうなんですけど。なんて言ったら何だか怖そうなので心の中に留めておく。
「ところで、トントンって呼ぶとトントンと被るから呼び方変えてもいい?」
「別にええけど、その前にあんたの名前教えてや」
「忘れてた。如月Aだよ」
「……何か変な名前やな?」
「日本人だしね。Aが名前」
「そか。よろしくな、A」
「よろしく、トンくん」
「……おっさんにその呼び方はキツくないか?」
「可愛いから異論は認めない」
「……まぁ、ええけど」
トンくん、なんて呼んだのはいつ以来だろう。懐かしいその響きに頬を緩ませるが、本人は少し不服そうに顔を顰めている。
自己紹介を済ませたところでふとテーブルにあった置時計が視界に入り「あ、」と声を漏らす。もうそろそろ午前一時。目の前の彼の事を追求したい気持ちは山々だが、そろそろ寝ないとまずい。
「トンくん、申し訳ないんだけど今日普通に平日だから私、朝から仕事あるのね?だからそろそろお風呂入って寝ないといけないんだけど……」
「あぁ、そうなん?何かすまんな。……でもあんたからはまだ聞きたいこと山ほどあるんよなぁ」
「また明日でもいいかな。取り敢えず今日はここに泊まってくれていいから。お布団持ってくるし」
「……ええの?見ず知らずの男をそう簡単に泊めるのはまずいと思うんやけど」
「幼馴染のそっくりさんを見ず知らずっていうのは……。大阪どころか日本も知らないのに帰り方なんて分からないでしょ?あ、お腹空いてたりしない?お風呂入る?」
「まぁ、確かに……。どっちも済ませてすぐ寝るところやったから平気」
「そっか。じゃ、私お風呂入ってくるね」
「おん。……あー、A」
「ん?」
「……ありがと」
少し小さな声で視線を逸らしながらその言葉を口にしたトンくんに、思わず笑って「気にしないで」と返す。だって、本当にそっくりなんだもの。
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ぽっぷこーん(プロフ) - CSSのON/OFF出来るようにしてくれると嬉しいです。デフォに慣れてるとあまり落ち着かなくて……無理でしたらすみませんが、ご検討よろしくお願いします。めちゃくちゃ面白くて好きです。見てる途中です (2021年11月4日 17時) (レス) id: 23b3a74ded (このIDを非表示/違反報告)
都 はなれ(プロフ) - はじめまして、ひぷさんの他作品から来たものです。CSSが切れないので設定の方変えていただくことは可能ですか?都合のお願いで申し訳ありませんがよろしくお願いします。 (2021年2月6日 22時) (レス) id: 70f991d98e (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 倉の中の石さん» 倉の中の石さん、初めまして!そう言っていただけるととっても励みになります。ゆっくり更新になってしまいますが、是非この先も楽しんでいただけたら幸いです。 (2019年11月21日 18時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
倉の中の石(プロフ) - めっさ面白いです!夢主ちゃんがヒロインヒロインしてなくて非常に好感が持てますね!更新頑張って下さい。応援してます! (2019年11月20日 2時) (レス) id: b9ac23ea5c (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 零さん» 零さん、初めまして!お目通しいただきありがとうございます。上手く違いを出せているのかとても心配だったのでドキドキしていただけてとっても嬉しいです!これからもどうぞ、当作品を宜しくお願いいたします。 (2019年11月10日 23時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
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