2 ページ30
.
お夕飯は焼き鮭と肉じゃがです。日本を知らない割には和食を作ってるトンくんの料理の腕前といえば、百点満点です。
毎日カップ麺やら冷凍食品やらという生活から一転、温かい手作り料理を食べれるなんて私、幸せ者過ぎる。
「ところでトンくん。今日は金曜日です」
「ほう」
「そして、明日は仕事お休みです」
「お、」
「お出かけしよっか！」
唐突にそんな事を言い出した私にトンくんが「ほんまに？」と嬉しそうな表情を浮かべてくれる。
私がいない間、ずっと家にこもっているのは流石に退屈だろう。自宅周辺の道案内をしておけば迷子になる事も無いだろうし、そしたら自由に外を出歩かせられる。
「トンくんがどんなところに住んでたのか分からないけど、私の家の中にあるものが目新しいなら外はもっとびっくりしそうだなぁ」
「俺もちょっとな、わくわくしとる。窓から見える風景だけでもうちとは全然ちゃうねん、建物の背が高過ぎてビビるわ。この部屋もえらい高いところにあるみたいやし」
「へえ、平屋が多いのかな」
「せやな。縦にそこそこ長いのは自分が住んどった城くらいやし」
「ほぉ、お城……ん？……お城？」
「言うてもこの部屋よりは高くないで。見晴台とか登ったら結構ええ眺めやったけど」
「……トンくんって王子様？」
「っふは、ちゃうわ。そんなん柄やないし。確かに城って言うたら王族が住んどるとこが殆どやけど、うち軍事政権やからあんたが思っとるような王子様はおらんな」
「そうなんだ。でも、お城に住んでるなんてちょっと羨ましい」
「でも一緒に住んどる奴らが喧しいのばっかでなぁ。毎日騒ぐわ暴れるわで色んな所ボロボロやで」
「ふふ、毎日賑やかでいいと思うけど」
「……せやなぁ。ほんま、賑やかな奴らやわ」
小さく呟いたトンくんが苦笑いを浮かべて、それからふと窓の外へと視線を向けた。細められた瞳が何処か寂しげに見える。……そりゃそうか。口には出さないけど、きっと今すぐにでも帰りたいのだろう。
そうだ、私は彼が無事帰れるように手を尽くさなきゃ。一体どうしたらいいのか皆目見当もつかないけれど、トンくんのあんな目を見てしまったらどうにかしなきゃ、なんて焦ってしまう。
「トンくん、帰れるように頑張ろ。私も出来る限りのことするからさ」
「！……ん。ありがとな。俺も何とか頑張るわ」
絶対に、帰してあげる。
その為に私が出来ることをちゃんと考えよう。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 661人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽっぷこーん(プロフ) - CSSのON/OFF出来るようにしてくれると嬉しいです。デフォに慣れてるとあまり落ち着かなくて……無理でしたらすみませんが、ご検討よろしくお願いします。めちゃくちゃ面白くて好きです。見てる途中です (2021年11月4日 17時) (
レス) id: 23b3a74ded (このIDを非表示/違反報告)
都 はなれ(プロフ) - はじめまして、ひぷさんの他作品から来たものです。CSSが切れないので設定の方変えていただくことは可能ですか？都合のお願いで申し訳ありませんがよろしくお願いします。 (2021年2月6日 22時) (レス) id: 70f991d98e (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 倉の中の石さん» 倉の中の石さん、初めまして！そう言っていただけるととっても励みになります。ゆっくり更新になってしまいますが、是非この先も楽しんでいただけたら幸いです。 (2019年11月21日 18時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
倉の中の石(プロフ) - めっさ面白いです！夢主ちゃんがヒロインヒロインしてなくて非常に好感が持てますね！更新頑張って下さい。応援してます！ (2019年11月20日 2時) (レス) id: b9ac23ea5c (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 零さん» 零さん、初めまして！お目通しいただきありがとうございます。上手く違いを出せているのかとても心配だったのでドキドキしていただけてとっても嬉しいです！これからもどうぞ、当作品を宜しくお願いいたします。 (2019年11月10日 23時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
