2 ページ38
.
「いいですか。この国では正当な理由無しに刃物を所持することは禁止されています」
「……護身用でもか？」
「基本的にはダメです。トンくんの故郷では普通に持ち歩けたのかもしれないけど、日本にいる以上そのナイフは持ち歩かせないよ」
「………」
自宅周辺の案内を終え帰宅した私は早速トンくんからあのナイフを取り上げようと彼に訴えかけていた。幾ら折りたたみ式の小型ナイフとはいえ、うっかり外で見つかりでもしたら大変だ。警察に取り調べでもされたら彼には戸籍すらもないのだからとても厄介な事になってしまう。
「……勿論、それなら銃も駄目やな？」
「ダメだね。そんなもの無くても現に私はここまで普通に生きてきたんだから大丈夫だって」
「そう言うてもなぁ……武器は常に持ち歩いとったから、いざ手放せ言われても若干不安が残んねん」
「法律だから仕方ない。忘れないところに仕舞っておこうね」
「……まぁ、しゃあないか。いざとなったら拳も脚もあるし、あんたを困らす訳にもいかへんしな」
「暴力沙汰も絶対に、絶っ対にやめてね！？」
「ふふ、分かっとるよ」
ほら、と言ってトンくんがとうとうナイフを私へと差し出してくれた。これはリビングに置いている棚の引き出しにでも仕舞っておくことにしよう。
初めてしっかりと彼のナイフを見たが、刃の収納部分に見知らぬ文字が彫刻されていた。何処となく高価そうな雰囲気を持つそれは持ち歩くにしては結構な重さを感じる。
「この彫刻、なんて書いてあるの？」
「俺の名前。普段は剣持ち歩いとるから要らんって言うたんやけどな、一個くらい隠し持っとけって友人から貰ってん」
「普段から剣……？」
大分私の中の彼の故郷がファンタジーチックな景色に塗られていく。ナイフをハンカチに包んでから引き出しに仕舞いつつ、剣を握るトンくんを想像したら中々にかっこいい姿が思い浮かばれた。ううん、現実味無さすぎるけど素敵。
「書記長、って言ってたけどトンくん戦ったりするの？」
「せやなぁ、書記長言うても内政ばっかやないで。まぁ、確かに他よりも書類仕事は多いけど」
だからそんなにいい身体つきしてるのか、納得。ちょっと機敏に動くトンくんを見てみたい気もするが、こんな平和な国じゃお目にかかれる機会はないだろうなぁ。トントンも見習って少しは身体動かしたらいいのに、なんて最近贅肉を気にしだした彼を思い出してくすりと笑った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 660人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ぽっぷこーん(プロフ) - CSSのON/OFF出来るようにしてくれると嬉しいです。デフォに慣れてるとあまり落ち着かなくて……無理でしたらすみませんが、ご検討よろしくお願いします。めちゃくちゃ面白くて好きです。見てる途中です (2021年11月4日 17時) (
レス) id: 23b3a74ded (このIDを非表示/違反報告)
都 はなれ(プロフ) - はじめまして、ひぷさんの他作品から来たものです。CSSが切れないので設定の方変えていただくことは可能ですか？都合のお願いで申し訳ありませんがよろしくお願いします。 (2021年2月6日 22時) (レス) id: 70f991d98e (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 倉の中の石さん» 倉の中の石さん、初めまして！そう言っていただけるととっても励みになります。ゆっくり更新になってしまいますが、是非この先も楽しんでいただけたら幸いです。 (2019年11月21日 18時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
倉の中の石(プロフ) - めっさ面白いです！夢主ちゃんがヒロインヒロインしてなくて非常に好感が持てますね！更新頑張って下さい。応援してます！ (2019年11月20日 2時) (レス) id: b9ac23ea5c (このIDを非表示/違反報告)
ぴぷ(プロフ) - 零さん» 零さん、初めまして！お目通しいただきありがとうございます。上手く違いを出せているのかとても心配だったのでドキドキしていただけてとっても嬉しいです！これからもどうぞ、当作品を宜しくお願いいたします。 (2019年11月10日 23時) (レス) id: def2dae9c2 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
