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「いのちゃん、何難しー顔してんの?」
「ん、?あ、ぁあ何でもない」
考えれば考えるほど分からなくなる彼の今日一日の行動。
結局仕事中も解読できずに、気が付けば皆、帰る準備を始めていた。
嬉しいような、不安を煽るような、ごちゃ混ぜの感情が入り混ざる複雑な気持ちで呆然とその光景を見る。
「大ちゃん、今日一緒に帰る?」
「…」
「大ちゃん…?」
二人だけの世界からふと目を離すと、気付けばメンバーは俺たちに手を振っていた。
知念と薮なんてもうこの後の飯の話をしている。最後に光があたふたしながら忘れ物を取りに来て、パタンと楽屋のドアは閉まった。その出来事をただただパラパラマンガのように眺める。
しん、と静まり返る楽屋に二人だけ。
大ちゃんは下を向いて喋ろうとしない。
あれ、これ今日の夢と____。
「…スキ…スキだよ、いのちゃん…」
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「いーのちゃーん!アイス食わね?あっちぃ」
「ん、お、うん」
ジワジワ鳴る蝉は閉め切ったレッスン室まで入り込んできて、集中力を削らされた。
エアコンが入っていても歌って踊ってりゃ、汗はダラダラ。まだお互い中学生だった俺達にとって、蝉の音は愚痴の対象に打ってつけだった。
ぼうっと呆けていることが多い俺だったから、友達が太陽を連れてきた時は驚いた。明るくて元気に笑う、言ってしまえば自分とは対照的だったのかもしれない。
ムードメーカーって言葉がお似合いで、誰にでも気さくに接するやつだった。
「俺…最近は大人の味?ってモンにハマってんのよ…ってことで、コレ」
「え、大ちゃんそんなチョコミントいけんの?歯磨き粉じゃん」
だらだらつつき合いながら、王道のバニラをセレクトする。いつだって失敗はしたくない保守派だ。それに大して大ちゃんは革新的。何事にも取り組んでみるのが彼のスタンスだ。
「まぁ…見てろよ」
やたら胡散臭い大人のディテールというのをやってみせ、いちいちドヤ顔でごちらを向く。指を指してクスッと笑ってやった。
「うっわぁまず…っ!不味い…まじー…やべぇよこれ」
「ほら〜だから言ったじゃん」
くだらない会話をして、お互いケラケラと笑う。この空間だけは、立ち入り禁止の黄色いテープをはらせてもらう。他人には分からない、分からなくていいツボ。
何にもないただその時間が楽しくて。
それが積み重なって、積み重なって、積み重なって、
崩れた。
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作者名:きなこも | 作成日時:2018年3月20日 18時