月を見上げて ページ1
様々な味は常に俺を楽しませる。
音楽の味、ダンスの味、好きなDJの味、
服の味やゲームの味。
数え切れないほどの味の中に、唯一知らないものがある。
誰もがきっと一度は味わっていて甘かったり、苦かったり。
噛み締めたくて、でもやっぱり嫌で、いつしか諦めてしまった味。
そう、俺は恋の味を知らない。
____
「じゃあ、俺の恋人、なっちゃおうよ」
暦の上では春らしい。
しかし寒さは一層深まるばかりで、冷え性の俺を困らせるだけだ。
丸い大きな満月は俺たちを見下ろして、紺碧の空から蔑んでいるようで。
道路の白線を「はみ出たらピラニアだー」なんて言いながら、わざとよろけて歩いていたのに。
いのちゃんはすっかりそんなこと無視して、俺の瞳の奥の、さらに奥をじっと見つめながらその言葉を口にした。
思わず俺は本当によろけて、白線から出てしまった。
ピラニアなんていないのに、本当に食べられてしまったような気になったのは、二人とも知らない。
_______
「いーのーちゃ、」
群青色の空に佇む主役の満月を、窓から見た途端、何かをふと思い出したように彼の名前を呼んだ。
俺の声に気付いたいのちゃんは、衣装着替えで少し崩れた髪を揺らしながらこちらを振り向く。無臭の中の、微かな甘い香りが感じ取れて、思わず口角が上がった。
「飯、食い行かね?」
そんな誘いを彼は快く了承し、二人でいつもより早く着替えて、タクシーを拾う。
最近ハマった隠れ家のような焼き鳥屋の店名を言うと、車は星が散りばめられたカーテンのような夜の中を走り出した。
店に着いて中に入ると、むわっと熱い空気を感じて、威勢の良い店員の声がする。
アイドルが行くような店じゃないからこそ、逆にリラックスできるので、いのちゃんも安心した様だった。
「とりあえず生でいい?」
「おっけーおっけー」
なんてスマホを見ながら適当な相槌を打つ。
そんな俺を見たいのちゃんは、例の如くぐっと眉間にシワを寄せて、携帯を取り上げた。
「私と携帯、どっちの方が大事なの?」
「うるせぇ!」
いつもの茶番を始めながら、いくつか焼き鳥をチョイスする。「ネギちゃんと食えよー」なんて言ういのちゃんをお構い無しに、これでもかと肉ばかりのものを注文した。
特製ダレと滲み出る肉汁が絡まった焼き鳥を腹に入れ、店を出る。
空の色は些細だが群青色から紺碧色に変わっていた。
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作者名:きなこも | 作成日時:2018年3月20日 18時