検索窓
今日:8 hit、昨日:8 hit、合計:15,691 hit

月を見上げて ページ1

様々な味は常に俺を楽しませる。
音楽の味、ダンスの味、好きなDJの味、
服の味やゲームの味。
数え切れないほどの味の中に、唯一知らないものがある。
誰もがきっと一度は味わっていて甘かったり、苦かったり。
噛み締めたくて、でもやっぱり嫌で、いつしか諦めてしまった味。

そう、俺は恋の味を知らない。




____




「じゃあ、俺の恋人、なっちゃおうよ」



暦の上では春らしい。
しかし寒さは一層深まるばかりで、冷え性の俺を困らせるだけだ。
丸い大きな満月は俺たちを見下ろして、紺碧の空から蔑んでいるようで。
道路の白線を「はみ出たらピラニアだー」なんて言いながら、わざとよろけて歩いていたのに。
いのちゃんはすっかりそんなこと無視して、俺の瞳の奥の、さらに奥をじっと見つめながらその言葉を口にした。
思わず俺は本当によろけて、白線から出てしまった。
ピラニアなんていないのに、本当に食べられてしまったような気になったのは、二人とも知らない。



_______



「いーのーちゃ、」


群青色の空に佇む主役の満月を、窓から見た途端、何かをふと思い出したように彼の名前を呼んだ。
俺の声に気付いたいのちゃんは、衣装着替えで少し崩れた髪を揺らしながらこちらを振り向く。無臭の中の、微かな甘い香りが感じ取れて、思わず口角が上がった。



「飯、食い行かね?」




そんな誘いを彼は快く了承し、二人でいつもより早く着替えて、タクシーを拾う。
最近ハマった隠れ家のような焼き鳥屋の店名を言うと、車は星が散りばめられたカーテンのような夜の中を走り出した。


店に着いて中に入ると、むわっと熱い空気を感じて、威勢の良い店員の声がする。
アイドルが行くような店じゃないからこそ、逆にリラックスできるので、いのちゃんも安心した様だった。



「とりあえず生でいい?」


「おっけーおっけー」



なんてスマホを見ながら適当な相槌を打つ。
そんな俺を見たいのちゃんは、例の如くぐっと眉間にシワを寄せて、携帯を取り上げた。



「私と携帯、どっちの方が大事なの?」


「うるせぇ!」


いつもの茶番を始めながら、いくつか焼き鳥をチョイスする。「ネギちゃんと食えよー」なんて言ういのちゃんをお構い無しに、これでもかと肉ばかりのものを注文した。




特製ダレと滲み出る肉汁が絡まった焼き鳥を腹に入れ、店を出る。
空の色は些細だが群青色から紺碧色に変わっていた。

・→



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (55 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
128人がお気に入り
設定タグ:いのあり , inar , Hey!Say!JUMP
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:きなこも | 作成日時:2018年3月20日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。