始まり ページ6
「誘ってくれたのはうれしいけど、自分は女だから。ごめん」
「え?」
うちの事務所の企画でメンバーを選び、グループを作って全員でデビューを目指すというサバイバル番組があるのだという。
同期入社で長年共にしてきた一番仲のいい彼、バン・チャンことチャニはこの番組でデビューを果たすために才能にあふれている、アイドルという宝石として輝ける原石たちを集めていた。
その中の一人に自分も誘われたが性別の壁は大きく、きっと彼らの足を引っ張ってしまうと断ったところ、チャニは大きく目を見開いて驚いた顔をしていた。
「女、?」
「うん」
もちろん彼らとは何度か月末評価を共にしたからわかるがあの時の練習の楽しさ、月末評価だというのに人の前で披露する、ということの喜びを分かち合ったあの瞬間は忘れられない。
だが自分は女で彼らは男。
日頃は意識しないようにしてくれて他の男練習生と同じように扱ってくれたのも感謝しかなかった。
なんて思っていたらチャニは急に頭を抱える。
どうしたのか、とのぞき込むとチャニは耳を真っ赤にさせていた。
「……もしかして5年以上一緒にいるけど気が付いてなかった、とか…」
そんなわけ!と思いながらははは!と笑いチャニの肩をたたくと無言のままだ。
あ、これずっと男だと思われてたやつだ。意識しないようにしてたわけではなく、完全に男だと思っていたやつだ。
確かに髪も短く筋肉質で胸もなくて顔も…まあ、中性的だと自分でも思う。声も女性にしては低めで動き方も他のヨジャアイドル練習生よりは男性寄りだろう。
でも流石にこんなに同じ時を過ごしておいて気づかないとは。ハグや挨拶のキスを「きゃー!」と乙女になりつつ受け入れてくれたのは男だと思っていたからなのか。
「それでも!…僕のグループには君が必要だ」
チャニは抱えていた頭をあげると真っすぐと私を見つめる。
しかし、事例はない。ナムジャアイドルの中に一人だけヨジャアイドルがいる、というのは自分が知っている限りでは聞いたことがない。
長年、共にデビューを目指していた彼に誘われたとき、心から嬉しかった。
だが自分はその重圧に耐えることができるのか、といわれたら難しいだろう。
「誘ってくれてありがとう。でも、ごめんね」
自分は彼と目をあわせることができずに目を伏せ、その場から逃げるように立ち去った。
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ぴヨこ(プロフ) - 雛さん» ありがとうございます!!!!!! (9月14日 17時) (レス) id: 0be2f5b57c (このIDを非表示/違反報告)
雛(プロフ) - めちゃめちゃ好きです!!!! (9月13日 15時) (レス) id: 5d587cd0ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ぴヨこ | 作成日時:2023年9月5日 20時