ウソつきはアイドルの始まり (ページ28)

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案の定、何も起こらないわけがなく。

吹っ切れたAは誰よりも堂々とスカートを靡かせていた。撮影が終わったあとは彼女が楽しかったと笑っていたのでほっと息をついて座るとその光景を眺める。

他のメンバーとセルカを撮る姿はどっからどう見ても女の子で。
彼女はあの姿でデビューしていれば世界に名を轟かせるアイドルになっていたのでは、と胸がざわつき始める。

定期的に彼女にウソそつかせてまでデビューさせる必要はあったのかと考えることがある。
彼女はよくやっている。女性だと疑う余地も与えないほどに。

「チャナ」

考え込んでいるといつの間にか目の前に来ていたようで顔を上げると優しい笑みを浮かべていた。

「メンバーとの写真撮り終わったの？」

「うん、あとチャニとだけ」

そう言って横に座ると撮影中とは違い、足を揃えていた。
Aが来た方を見るとほかのメンバーたちはお互いに撮影会をしていた。

『また変な心配事してたでしょ』

そういうと僕の顔を見て笑う。
彼女は勘が鋭い。彼女には隠し事が出来ないのだ。

『その姿でデビューをさせてあげたかったなって思って』

「え゛」

素直にそういうと彼女は顔を歪ませた。
心底嫌そうな顔をしていて拍子抜けする。そんなに嫌なのかな、とつい笑みがこぼれた。

『自分はみんなと...クリスと同じグループでデビューできて幸せだよ』

そう言うと僕に寄りかかってくるA。

『確かにウソをつくことは辛いこともあるけど、自分はAというアイドルとして誇りを持ってるし...何より、クリスが共犯者だからね』

イタズラな笑顔を浮かべるとぽんぽんと背中を撫でて来る彼女に先程までの不安は消えていて。
彼女には敵わないな、と頬を緩めた。

『そうだね、僕達は共犯者だ』

二人でくすくすと笑うと他のメンバーたちがこちらに気がついたようでぞろぞろとやってくる。

彼女はこれから一生、ウソをつき続けるつもりだろう。
もしかしたら結婚することも、恋人をつくることすらできないかもしれない。

その時は安心してよ。
君が嫌じゃなかったら僕が責任をとるから。

「何の話してたの？」

「次は全員で女装しようねって話」

「え！絶対嫌！チャニヒョンの女装見たくなさすぎる」

「なんだと！」

「やりたくないじゃなくて見たくないなんだ」

わー、と逃げるヒョンジンを見守りながら隣で笑う彼女を見る。
僕は今日も自分の感情にウソをついた。