モトカノ依存症【吉沢亮】 (ページ3)

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episode3 ページ3

名前を呼ばれるとクラスは一気に静まり返った
目線は俺の方へ向けられた

"お～～～やっぱり吉沢は貰えるのか…"
"ひゅー"

この日に呼び出されるということはなんとなく察しがつく
何度も経験したことのあるこの展開に正直うんざりしながら廊下に出る

教室側を振り向くと気になって仕方のない奴らがいたのでドアを閉めた

『…』
“あ、私じゃなくて”

…？
その子が顔の前で手を振るとどこからか感じる視線に気付いた

視線の先に目を向けると
廊下の角でこちらをちらりと見る子が見えた

“ちょっとAー吉沢君来たよー”

目の前の彼女が名前を呼ぶとその子は千鳥足のような歩き方でゆっくりとこちらへ歩み寄る
…また変なのが来た
Aと呼ばれるその子が俺の前で立ち止まるが、何も発さない

気付くと俺を呼び出した友人であろう女子生徒はいなくなり二人きり。

「……あ、あ、あの…」

初めて彼女の声を聞いたのはその時だった
震えたその声とともに顔を上げる彼女
目が合ってるようでどこを見ているんだろうというぐらい目が泳いでいた

「私、A組のAAといいます…」

A組には何人か知り合いがいるが彼女のことは初めて見た
一つ一つの言葉を発するのすら必死な彼女
どこにでもいそうな子だなってのが第一印象だった

多分今まで廊下ですれ違ってても気付かなかったと思う

「あの、前から吉沢君のことが気になってて…」
『…』

何度も経験したことのあるこの展開の先は読めていた
あと数十秒後には一方的な気持ちを伝えられ俺の気持ちなんて知らずに付き合ってほしいと言われるんだ
彼女が話している時にはもうどう断るか考え始めていた

「…」

ぼーっと彼女の話を聞いていた時
今までどこを見ていたか分からなかった彼女と急に目が合った

目が合うと彼女は手に持っていた紙袋を俺に渡した

『…』
「これ…よかったら…」

いかにもバレンタイン使用の薄いピンクの紙袋を俺の前に出す
どう見ても震えている彼女の手から緊張が伝わる

『…ありがとう』

俺が受け取ると彼女は…

逃げた。

…てっきり告白されるのかと思った。

手元に残った紙袋の中身を確認しないまま教室に戻ると
クラスメイトたちは俺…ではなく手元の紙袋に目をやった

神木:亮～～告られたの？
『告白…されてないと思う』

これが彼女との出会いだった
その時は好印象どころか少し不気味に感じていた