十一日目(６) ページ32
「あ…カミュさん…」
頑張ろうと決意を固めたところだったのに、彼の顔を見るとつい弱音を吐きたくなってしまう。彼の表情は最後に見たときと同じようにしかめ面のまま。どうしてこんなに怒っているのだろうか
「…で、どうするんだ？」
「え…？どうするって…」
「みんなこの部屋の中でお前を待ってるぜ。…今なら俺がAを連れて一旦この街から逃げ出すこともできる。やりたくないんだろ？」
一瞬、ほんの一瞬だけれども彼の空気に気圧される。
「俺たちのメンツなんて考えなくていい。どうせ始まりは指名手配犯だからな。それに、ここの王子サンはそんなことで腹を立てる器でもないしな」
にやり、少しだけ悪どい笑みを浮かべてこちらへ手を差し出してくるカミュさんはどうやら本気のようだ。
「さぁ、どうする？」
「……い、いえ…私、出ます」
「そうか…まぁ、お前ならそう言うと思ったよ。」
結局は逃げる度胸もないだけだけれども、一旦引き受けたからには断るわけにもいかない。
少しだけ残念そうな、でも嬉しそうな顔をしたカミュさんの笑顔が視界の端に見えたけれどなぜか目を合わせることができない。
「…本当は、俺が嫌なだけなんだろうな」
「…カミュ、さん？」
右手が大きな手に捕まってぎゅうっと握られる。熱すぎてどうにかなってしまいそう。
どのくらいの時間をそうしていただろうか、沈黙を破ったのは気持ちを落ち着かせるようにふぅっと長く吐き出されたカミュさんの深呼吸の音だった
「よし、行ってこい。」
「は、はい！行ってきます！」
とすんと背中を押されると力が出た気がする。
精一杯出来ることをやろう。私の中の精一杯を。先ほどよりも軽くなった足取りで室内に入ったら練習開始だ。
「てっきり連れ去っちゃうのかと思ったわ〜」
「…Aが望んだらそうしたさ。」
「断られるのわかってたくせに…盗賊らしくないわね」
「なんだよ舞踏会を台無しにしてほしかったのか？」
「そんなことないわ。ただ、あなたたちって見ててもどかしいのよ…！カミュちゃん、もっと押しなさい！押して押して押しまくるのよ！あ、でも距離が近すぎたらAちゃんが倒れちゃうかもしれないから気を付けること！」
「…たくっ、小うるさい保護者がいたもんだぜ」
そんな二人の会話は私の耳には入らなかったけれどカミュさんパワー充電で練習も頑張ることができた気がした。
握られた手はまだ熱いまま
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 103人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リィリ - 妄想が爆発しちゃいます。とても、面白いです！ (2019年1月11日 22時) (
レス) id: 401a5e74b1 (このIDを非表示/違反報告)
まじかるれいん☆ - わー！懐かしー！今はもう断捨離したつもりだったけど、あー！今なら良さがよくわかる！ (2018年12月30日 21時) (レス) id: 9a258b9a35 (このIDを非表示/違反報告)
深 - カミュに愛されるヒロインちゃん。愛おしいです。更新首を長くして待っています。 (2018年3月14日 1時) (レス) id: f04a5e4031 (このIDを非表示/違反報告)
わらびもち - 凄く面白いです！更新楽しみに待ってますね♪ゆっくりで大丈夫です！ (2018年1月22日 20時) (レス) id: b715a17a6f (このIDを非表示/違反報告)
ぴぬこ(プロフ) - クルルさん» コメントが通知来ておらず返信遅くなってしまってすみません…初めましてこんばんは、コメントありがとうございました。亀更新ですが頑張ります…！ (2017年12月25日 22時) (レス) id: cd5f3e3a51 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ふわ | 作成日時：2017年8月18日 7時
