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「そうですけど、ご用件は?」
一度も会ったことがないけどわかる。
この人、今絶対機嫌悪い。
強弱のないロボットみたいな声色に、急かすような口調。
早く電話切りたいとか思ってるんだろうなあ。
こっちは良かれと思って電話してあげてるのに、何かちょっとムカつく。
これだから襟足の長い男は…。
「もしもし、聞こえてます?今ちょっと急いでるんですけど、」
急いでるって、こっちだって早く帰ってストレス発散したいんだよ。
本当にこの財布持って帰ってやろうか。
『道で財布を拾いまして、一緒に落ちてた社員証にあなたの名前と電話番号が書いてあったので連絡しました。急いでるなら近くの交番に預けますけど。』
相手の話し方を真似るように淡々と言い返してやった。
…ちょっと大人気なかったかな。
「え、拾ってくれた方やったんですか…!それは失礼いたしました。すぐに取りに伺うので、今いる場所の住所を教えてもらってもいいですか。」
『え、あ、はい』
さっきとは全く違う、安心したような優しい声色。
もしかして、というかもしかしなくても、財布を落としたから機嫌悪かったのかな。
自分の居場所を伝えると、なぜか新しい住所を伝えられて、その中で待っていて欲しいと言われた。
今いる場所から歩いてすぐの建物らしい。
言われた通りその場所へ向かうと、
『…ん?』
“改装中”と書かれた看板がかかった小洒落たカフェのようなお店。
店内はほとんど出来上がってるみたいだけど、とても私が入っていいような雰囲気ではない。
え、場所間違えた?
ちゃんと言われた通りの建物だよね。
さっきの場所からすぐ近くだったし。
「あの、失礼ですが、AA様でしょうか?」
『…はい、そうですけど、』
突然お店から出てきた女の人に声をかけられた。
綺麗な人、店員さんかな。
いや、そうじゃない。
何でこの人、私の名前知ってるんだ。
「お話は伺っております、どうぞ中へお入りください。」
『え、』
“改装中”の看板を無視して、店内へと案内された。
木造ではありながらも、上品で素敵な雰囲気の空間。
所々に綺麗な植物が飾られていて、どこからかフルーツの甘い香りがする。
オープンしたら、通っちゃいそうだな。
「こちらで座ってお待ちください。」
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作者名:キオ | 作成日時:2022年8月24日 6時