恋泥棒【宮侑／宮治】 (ページ2)

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カチカチと規則正しい時計の針の音が教室中に響き渡る

日も落ちて暗くなった教室でひとり勉強していたわたし

あと、5分

普段は帰宅部だからすぐに帰るけれど、今日は委員会があったから
いつもより遅い時間まで学校にいた

｢遅い時間に1人で帰るん危険やし、送ってく
...自分、可愛いんやし｣

侑が一緒に帰るお誘いをくれたから、
今は彼の部活が終わるまで教室で待機中。

一緒に帰るのは久しぶりで胸が踊っていた

好きな人の前では可愛くありたいから

コンパクトミラーを開いて前髪をいじったり、
かさかさな唇にリップクリームをぬったり

うん、大丈夫

勉強道具を片付けていると、階段を登る音が聞こえた

侑がくる

1秒でも早く会いたくて、教室のドアに向かう

足音が近づいてきた

私の鼓動も少しだけはやくなる

ガラガラとすべりの悪い教室のドアがひらく

『侑！お疲れ様...って治くん？』

｢ふは、Aちゃん大胆やな｣

『あぁっごめん！』

思わず抱きついてしまったけれど、侑じゃなくて治くんだった

侑の片割れ、治くん

2人は似ているけれど、顔を見なくても違うってすぐに分かった

声がちがう

ポジションが違うからか、筋肉の付き方も少しちがう

同じ柔軟剤の香りだけれど匂いもちがう

また、漂う雰囲気もちがう

『でも治くん、なんでここにきたの？』

｢あぁ、えっと...｣

彼は少し顔を歪ませた気がした

目が細まり、口角が上がった

ほんの少しの変化であったから、気の所為かもしれないけれど

侑がバレーを楽しんでいるときの顔

少し意地の悪い顔に重なった

その治くんの顔の変化に疑問を抱いていたとき

トントンと階段を登る音が耳に入った

｢あ、侑だ｣

｢...Aちゃん、そういう顔もできるんやね｣

｢え？って治くんっ...なにして｣

突然、治くんに抱き寄せられた

大きい手が私の腰を掴む

がっしりとした鍛えられた腕が離さないとでもいうかのように
体にまきつく

侑と、ちがう

なんで治くんに突然ハグされたのかも気になるけれど
侑ももうすぐ来るし、誤解されても困る

早く離してほしい

しかし、力を入れても彼はビクともしない

｢ねぇ、治く...！んっ｣

治くんを見上げた刹那

彼の顔が近づいてきたと思えば、抵抗する間もなく
唇を奪われた

彼氏(侑)のかたわれ(治くん)に

スポドリの味が口に広がる、キス